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「城丸君事件」の不可解 後編


11月24日(土) 17時40分
 




 前田尚一弁護士

 >>プロフィール
 殺人罪で起訴されながらも、一審で無罪を言い渡された工藤加寿子被告。11月27日から始まる控訴審を目前に、前田尚一弁護士がこの事件の“不可解”に迫った。

 では、裁判官は、検察側がどこまで証明すると、“黒”であると判断してよいのかであるが、「合理的な疑いを超える」程度の証明が必要である、とされている。そして、最高裁判所は、「通常人なら誰でも疑いをはさまない程度の真実らしいとの確信」と表現している。

 検察側は、札幌地裁がほぼ全面的に検察側の主張を認めた事実認定をしながら、証拠があったのに殺意を認定しなかったことは承服できない、と批判している。要するに、検察側は、「殺意」についても、“黒”であるといえる証明ができている、と言うのだ。したがって、当然、控訴した。控訴審では、この点について攻防がなされることになる。ところで、札幌地裁は、本件では、死因が特定できないこと、犯行態様を客観的に確定できないことなどから、「被告人に殺意があったとするためには、被告人が城丸君を呼び出した目的が城丸君殺害に結びつく蓋然(がいぜん)性が高いことや、被告人に城丸君殺害の明確な動機が認められることが必要というべきである」とし、証拠によって、これらを認めることはできないとした。

 が、この判断は、死因が特定できず、犯行態様を確定できない場合であっても、被告人が城丸君を呼び出した目的や動機の証明如何によっては、「殺意」を認めることができる場合があると言っていることになる。

 城丸君事件だけではなく、直接的な客観的証拠の乏しい、他の数々の刑事事件も念頭におくと、地裁判決が、「殺意」を認定する上でのハードルを下げているという指摘があるのは、そのためだ。

 城丸君事件では、“直接”的な客観的証拠がなかったということのほか、工藤被告人が、逮捕後も、黙秘を続けていた、つまり、弁解をすることもなく、終始一貫して黙り続けていたという点でも、極めて異例な事件であった。

 この点をとらえ、検察側は、黙秘を続けること自体が罪を逃れる態度と主張していたが、札幌地裁は、「被告人が公判廷で公判廷で検察官や裁判官からの質問に、何ら弁解や供述をしなくても、被告人としての権利の行使にすぎず、それをもって犯罪事実の認定に不利益に考慮することが許されないのは言うまでもない」としている。

 つまり、黙秘することは権利である以上、権利を行使して不利益に処遇されるのはおかしいということだ。

 工藤被告人が、法廷に出廷しても札幌地裁と同様の対応をするであろうことは容易に推測がつく。が、刑事訴訟法によると、控訴審においては、被告人は原則として出頭する義務はない。被告人が、そもそも札幌高裁に出廷するかどうかも、今から興味深いところである。もとより、地裁判決の論理によれば、出廷しなくとも、犯罪事実の認定に不利益に考慮することが許されないこととなる。

 いささか長文になってしまったが、少なくとも、地裁判決が、「何を言っているのかわからん」ということは解消されたのではないだろうか。

 しかし、「納得できない」という意見をぬぐい去れない読者もおられるかもしれない。

 そもそも、検察側は何故、工藤被告人を起訴したのか。本当に、有罪獲得の自信があったのか、それとも、警察が工藤被告人を逮捕してしまったので、やむなく見切り発車してしまったのか……等々、大小、泉のごとく疑問がわき上がってくる。

 「納得できない」という意見に対し、明確な解説をすることは私の能力を超えるが、1つ、“切り口”を提示しておきたい。

 城丸君事件と、酷似した事件があったとする。仮に「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則によれば、札幌地裁判決と同様、無罪の結論となってしかるべきであるとする。

 が、その事件の被告人は,真実,殺人罪を犯していたとする。

 では、この“ズレ”は,どう解消されるのか。

 「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の原則は、国民の基本的人権そのものに立脚するものであって、なにごとがあろうと、死守すべきものであると考えるのであれば、この“ズレ”を、甘受して当然のことになる。

 しかし、事実として、抑止されることなく犯罪がはびこる結果となり、その数が一定値を超えることとなれば、平穏な生活などなくなるであろう。だから、そんな“きれい事”では済まされないという声も、聞こえてくる。

 さて、さて……。私たちが本気で考えて行かなければならないことは、自衛隊の後方支援だけではない。そして、それらは、国民的“決断”を伴う、そんな事柄についてである。







関連サイト

前田尚一法律事務所
http://www.smaedalaw.com/






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