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北大・櫻井義秀助教授に聞く「カルト宗教のいま」 前編


 
研究者をして、“厄介な存在”。
「わが国犯罪史上最も凶悪な犯罪者というしかない」――4月24日、東京地裁。検察側は殺人罪などに問われているオウム真理教(アーレフに改称)の麻原彰晃こと松本智津夫被告に冒頭のように指摘し、死刑を求刑した。松本被告は一連の事件に対し、「弟子がやった」ことと無罪を主張しているが、来年、厳しい判決が言い渡されることは避けられない見通し。
一時期、マスメディアをにぎわせた「カルト宗教」の問題は、オウム裁判以後、公判に関わる記事を除き少なくなった。そのため、「カルト問題」の「現状」がどのように推移しているかはもちろんのこと、「カルト問題」そのものが「風化」しつつある観すらある。
「カルト問題」に関わる“すべて”を北海道大学大学院文学研究科の櫻井義秀助教授(宗教社会学専攻)に聞いた。以下、櫻井氏との一問一答。
――櫻井先生と同じような学問を研究をされている学者は少ないようだが…。
櫻井 例えば、宗教社会学の研究者でカルト問題を研究しているものは極めて少なく、わずかに5、6人しかいない。理由はいくらでもある。日本の宗教学において、新宗教研究が盛りを過ぎてしまった。新宗教の教団自体が安定成長を遂げ、誕生したばかりの頃のように、多くの信者を集めるパワーがなくなり、研究対象として魅力がなくなったのだ。
もうひとつは特に「カルト問題」がそうだが、研究者は調査して論文を書くことが難しい。私はかろうじて論文を書いているが、それは最近のこと。カルト問題の研究を始めたのは95、6年。以後7、8年を費やし、最近の1、2年でようやく論文がまとまりつつある。 生産性が低い。
――その理由は。
櫻井 ひとつはカルト視される新宗教に関する調査が非常に難しい。例えば、島田裕巳氏(オウム真理教に対し、好意的な論評をしたとして休職を命じられ、後に辞任した日本女子大学の元教授)のように、教団に直接調査を交渉すると、はめられる危険性がある。広告塔に使われ、後で社会的批判を受ける。かといって、潜入取材のやり方でデータを収集するには危険が伴う。
しかも、教団内部に入ったところで、末端信者と同じレベルでは、教団の権力中枢部の動きは分からない。対外的な穏やかな顔と内側の恐い顔を使い分けるがゆえに「カルト」と呼ばれているわけだが、その研究を1人や2人で切り込み、明らかにできるような対象ではない。結果的に、外堀に櫓を建てて、内側をのぞき込むような調査しかできない。これでも相当大変である。もうひとつ、こういった教団は訴訟を批判封じ込めの戦術として使う。
統一教会、幸福の科学等は、教団の違法活動を告発する弁護士や大学教師ですら名誉毀損で訴えてくる。法律に詳しくない一般人が訴訟に巻き込まれたら相当の心労を伴う。訴えられたこちらは生身の人間だ。仮に東京地裁にでも提訴されれば、自費で裁判所に出向き、弁護士も頼まなければならない。兵糧攻めに遭う。研究するにはリスクが高い。
だから賢明な学者は避ける。キリスト教や仏教などの伝統宗教を経典で勉強すれば、思想や歴史の知識、知恵が身に付こう。しかし、失礼ではあるが、オウム真理教や統一教会を勉強して啓発されることは少ない。人間の支配欲、業の深さに気が滅入るばかりだ。以上のようにさまざまな理由があって、こういった宗教団体は研究されていないのだろう。
――今後、研究者が増えることはない?。
櫻井 ないですね。私も若手の学者にこの種の研究は勧めない。なぜかと言えば、こういった団体は大学院生の1人ぐらい簡単に潰すことができる。また「カルト研究」はしているだけで、物好き、主流の研究ではないと見られて、研究者の市場においては就職に不利である。
――先生はカルトという言葉は使っていないが、「カルト問題」の研究はされている。
櫻井 私はカルトにカッコを付けて「カルト問題」の研究をしている。カルトというものは社会的実体として存在せず、「カルト」というラベリング行為があるだけだ。ラベリング行為をした人間と、当の教団が争っている事実しかない。そこで何が争われているかの事実関係を確認することが私の仕事なんです。
――週刊誌も含め、最近はいわゆる「カルト」の報道が公判を除けば少ない。
櫻井 マスメディアは飽きたのだと思う。売れないから報道しないだけであって、問題がないかといえば全く違う。オウム真理教ほどの犯罪をやったケースは確かに存在しない。しかし、オウム真理教や統一教会は、これだけ批判されてきているにもかかわらず依然として活動している。また詐欺まがいの活動をしている団体も依然として存在している。こういう宗教団体が大掛りな事件を起こしたり、裁判になれば、その時は報道されるだろう。
我々研究者は世の中の関心とは関係なく、ずっと同じものを観察している。そこからすると「カルト問題」はあまり変わっていない。変わっていないどころか、むしろ、社会問題化する宗教トラブルが増えてきている。それは、一般市民の人権に対する感覚が変化してきたため、「私の人権を著しく侵害した」と宗教団体を訴え、法定で解決しようとする人たちがたくさん出てきたからである。
■櫻井義秀(さくらい よしひで) 1961年4月、山形県上山市生まれの42歳。84年、北海道大学文学部哲学科卒業。87年3月北大大学院文学研究科博士課程中退。北星学園女子短期大学家政学科専任講師、北大文学部講師を経て、96年から 同大助教授。専攻は宗教社会学。







関連サイト

櫻井義秀氏HP
http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~n16260/






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