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北大・櫻井義秀助教授に聞く「カルト宗教のいま」 後編


05月09日(金) 18時30分
文:東  



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櫻井義秀氏
 “インターネットは宗教の新たな勧誘手段となり得る”

 「カルト問題」に関わる“すべて”を北海道大学大学院文学研究科の櫻井義秀助教授(宗教社会学専攻)に聞く最終回。以下、櫻井氏との一問一答。

 ――元信者の教団に対する訴訟は年々増加しているようだが…。

 櫻井 従来であれば、信者は教団側に奉仕や献金を無理強いされた程度にしか受け取っていなかったが、「私の人権を著しく侵害された」と訴える事例が出てきており、一般市民の人権に関わる感覚が変わってきている。これまで宗教関連の訴訟は、教団内部で誰が後継者になるか、どちらの教派・宗派が正統かなどの争いが多かった。献金についても、信者には納めた金を取り戻そうという発想はなかった。

 ところが最近は元信者が自分の所属していた団体を相手取り、献金の返還請求などをするケースが急増している。人権あるいは信教の自由に対する感覚がこの10年ほどで随分と変わった。

 ――信者が教団から金を取り戻そうという発想が芽生えた契機は。

 櫻井 献金に関しては霊感商法の裁判が発端だろう。しかし、統一教会に反対する市民の動きとしては、「原理運動対策父母の会」が、1967年に結成されている。何度か再編された被害者の家族の会は長らく統一教会を批判してきたが、世間では「好きで入ったんでしょ」程度の受け止め方しかしていなかった。

 しかし、80年代後半からは「統一教会に入っていた間、自分は信教の自由を侵害された」と、その期間の精神的な慰謝料を求める裁判が進められ、裁判所は「問題にできない、ならない」という姿勢からようやく教団の入教勧誘行為を違法とするようになった。

 ――道内で発生した宗教関連の問題は。

 櫻井 天地正教の問題があった。天地正教は統一教会の別派と言うべき存在だ。この宗教団体は、十勝管内の清水町に新たな施設を建設しようとして頓挫した。私はこの問題に関して論文を書いているが、町民からの反対運動を受けた教団の松山貢三代表は町議会で「天地正教は統一教会とは関係ない」と言い張った。

 しかし、天地正教の機関紙には、正月の儀式の際、祭壇に飾ってある統一教会の創始者・文鮮明夫妻の写真に拝礼している記事が掲載されていた。清水町議が議会でこの機関紙を手に「あんたはこれをどう説明するんだ」とやると、松山氏は言葉に窮したと言われている。

 この一件で町は教団と地域住民反対派の仲介役を拒んだ。教団施設の建設にあたっては道の許可が必要で、開発申請の要件として地域の理解を得ることが条件となる。ところが、道への開発申請は通らず、天地正教は施設の建設を断念した。結局、教団施設建設の計画は塩漬け状態になり、統一教会も天地正教という教団を利用する戦略はやめてしまった。

 ――天地正教の施設は以前、札幌の白石区にもあった。

 櫻井 私も調査したことがある。しかし、週刊誌に書かれたり、消費者センターに連絡されたりした結果、あまり信者も集まらず、閉鎖したということだろう。

 なお、天地正教の初代教祖川瀬カヨの娘が2代目教主となっていたのだが、統一教会から派遣された代表にポストを譲り渡した後、今は「海命寺・富士の会」という教団を結成した。この人は教団の内紛から天地正教を離れ、真言宗高野山派で得度し、新たに信者の会を結成したということらしい。

 ――道内における各宗教の信者数は把握されているのか。

 櫻井 数年前に道の学事課に行っても記録はないとのことだった。認証に関わる事務処理はしても、毎年データを収集しているわけではない。従来、教団は、宗教法人として認証されれば、あとは行政から管理されることはなかった。しかし、オウム事件後に宗教法人法が改正され、宗教法人は活動報告をすることになってはいる。道に限らず、日本で宗教団体が「実際に」何をしているのかを把握している所轄官庁はない。文化庁宗務課は書類の整理業務で手一杯であり、調査等しているわけではない。

 ――「信教の自由」が拡大解釈されるようなケースはないか。

 櫻井 信教の自由は憲法が保障している通り大切なことだ。しかし、「自分が何をしようと自由だ」という形の自由は在り得ない。人間はそれぞれ社会の中で生活しているため、個人のさまざまな行為の影響が他人に及ぶ。こうした行為が迷惑を及ぼしたり、危害を与えたり、ほかの人に対する信教の自由の支障になれば問題だ。

 具体的に懸念されるのは布教活動だ。「信じたくない自由」「関わりたくない自由」が認められている以上、これには配慮しなければならない。

 ――現在、街頭での宗教団体の勧誘は以前と同じように行われている?。

 櫻井 相当減っているはずだ。

 ――理由は。

 櫻井 時々、ニュースなどで勧誘活動が報じられているし、学校でも学生に警戒しなさいと指導している。こうしたことがあって、その手の方法ではなかなか人を集められなくなった。

 逆に新しい勧誘方法となり得るのがインターネットだ。ネット上にはもの凄い人が集まる。私自身は、将来、ネット上のカウンセリングや相談受付、話し合いの場やオフ会などが、主催者中心の閉鎖的な集団にならなければいいと思っている。カウンセラーは臨床心理士の認定資格を持っていると思われているが、ネット上では資格の必要がないし、カウンセリングをしながら別の教説、あるいは「独自の見解」を説く可能性もある。

 ――こうした教団の今後の問題点は?

 櫻井 オウム真理教(アーレフに改称)でも統一教会でもいいが、こういう教団が途中で消滅して、中高年に達した信者が世の中に出て来た場合、誰が面倒をみるのかという問題がある。信者は年金もかけていないし、それまでの税金も払っていない。生活保護費をもらうのか、我々が養うことになるのか。こうした問題は特殊であるが、いろいろな形で我々に跳ね返ってくる。

 ――学生が抱く「宗教観」は。

 櫻井 大学の講義ではこんなことを話しているが、私が懸念しているのは、5,6人の学生に「統一教会を知っているか」と尋ねても、誰も手を上げなかったこと。桜田淳子も合同結婚式も知らない。だから統一教会が統一教会の名前を明かして勧誘をしても、入る学生がいるかもしれない。学生は、こと社会問題や宗教トラブルに関しては、知らないことが多すぎる。

 ――オウム真理教の裁判には、「時間稼ぎ」の手法が見受けられる。これに加担しているのが、人権擁護派の弁護士ではないか。

 櫻井 弁護士が依頼人の弁護をするのは当然なことで、すべてを社会的正義に基づき説明する必要はないだろう。しかし、第一に人権を侵害されたのは被害者で、中には理由もなく殺された人がいる。片や自分の思い込みで人を殺した人間が、「死刑に当たることはしていない」と本気で言うことができるのか。

 ――場合によっては被害者の人権よりも、加害者の人権が守られようとするきらいがあるようにも見受けられる。

 櫻井 どちらも大切だが、被害者の人権が守られていない状況があったり、遺族が知りたい事件の真相は、家裁や少年事件の場合、傍聴することができないなどの問題がある。裁判を長引かせる戦術にしても、遺族が被告より先に亡くなってしまうこともある。こうした問題については、法律論として正しくとも、社会常識になじまないということがある。

 一例を挙げるとオウム真理教の問題だ。世田谷区役所はオウムの信者が住む烏山の住民票の受理を巡り、訴えられた。最高裁はこの件が「違法である」と和解を勧告。最終的に区は和解を受け入れ、和解金を支払ったが、これがオウムの活動費になっている(アーレフの言い分では、サリン事件の被害者救済のために破産管財人に渡すとのこと)。法律の専門家や人権活動をしている人が「区がおかしい」とするのは、法律上は正しい。同時に烏山周辺で反対運動をしている人々も「心の狭い人たちだ」と言われもする。

 こうした発言は確かに半面でこそ当たっているものの、問題は地域住民の立場での発言がなされていないことだ。住民はこの地区に相当の金額でマンションを購入している。しかし、現在の資産価値は、売れたとしてもわずか十分の一程度に下がっており、深刻な問題だ。住民の生活権が完全に侵害されている。運が悪いという問題では済まされない。オウムが事件を起こさなければ、住民が反対する理由はなかったし、恐怖心を抱くこともなかった。

 ――オウムに対する不信感は名称を変えても払拭されない。

 櫻井 現実に麻原彰晃被告は開祖として敬われている。そういった人たちが何をするか分からない気味悪さ、恐怖心がある。そして有罪判決が下されても教団に留まっている信者の感覚は我々にとって信じ難い。だから「こういう人たちとは一緒に生活をしたくない」という感覚が出てくるのであり、これは自然なことだと思う。常識的対応とも言えよう。

 常識を必要としなければ、すべての物事は法廷で白黒を決めなければならないが、そういう形で世の中が動いているわけではない。法律は何のために存在するのかといえば、そこで生活する人の権利を守るためにある。だからこそ世田谷区は住民の反対理由に「根拠あり」と認めた。にもかかわらず、住民が不利益を被るのはとんでもないことだ。

 ――先月、検察は麻原彰晃被告に死刑を求刑した。この是非は。

 櫻井 私個人は死刑しかないと考えている。あの犯罪を起こした張本人というだけではなく、サリン事件実行犯の刑事事件とのバランスもある。もし無期懲役の判決が下されることになれば、ほかの殺人事件等での事件で出ている死刑判決と釣り合わないことになる。弟子は2人を除いて(控訴中も含め)死刑判決が下されている。弟子は師匠のために死ぬ覚悟でやった。当然、麻原被告も自分がした行為の責任は取らなければならない。

 また麻原被告が無期になっても罪を償うことはないと思う。罪という観念は、彼の頭の中、或いは教義上、全く別の観念であろう。こういう人に反省を求めても通じないのではないか。

 ――麻原被告の死刑が確定した場合、アーレフにはどのような影響があるのか。

 櫻井 麻原被告は今は象徴的存在で、実際の教団運営は幹部がやっているわけで、現在の教団にさしたる影響はないと思われる。

■櫻井義秀(さくらい よしひで) 1961年4月、山形県上山市生まれの42歳。84年、北海道大学文学部哲学科卒業。87年3月北大大学院文学研究科博士課程中退。北星学園女子短期大学家政学科専任講師、北大文学部講師を経て、96年から同大助教授。専攻は宗教社会学。







関連サイト

前編
http://www.bnn-s.com/bnn/bnnMain?news_genre=17&news_cd=H20021021303

中編
http://www.bnn-s.com/bnn/bnnMain?news_genre=17&news_cd=H20021021307

パナウェーブ研究所編
http://www.bnn-s.com/bnn/bnnMain?news_genre=17&news_cd=H20021021315

櫻井義秀氏HP
http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~n16260/






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