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検証 「恵庭OL殺人事件」第29回 “明暗”を分けた4人の証言


10月17日(金) 00時00分
文:東  



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橋向香さんの遺体が発見された恵庭市北島の現場
 遺体焼損推定時刻、現場付近には2台の車が停まっていた。ところが、その目撃証言は軽視された。

 周知のように札幌地裁(遠藤和正裁判長)は、3月26日、「平成12年(わ)第534号 殺人、死体損壊被告事件」(恵庭OL殺人事件)の大越美奈子被告に対し、懲役16年(未決勾留日数中、540日を刑に算入)を言い渡した。

 当初から被告の無罪を主張していた弁護側が、即日控訴したため、控訴審は来年から札幌高裁で開かれる予定(公判期日未定)だ。

 判決文の理由(犯罪事実)と結論は次のように記載されている。

 理由(犯罪事実)

 第1 被告人は、平成12年3月16日午後9時30分ころから同日午後11時5分ころまでの間、北海道千歳市、恵庭市又はその周辺において、被害者(昭和50年4月2日生)に対し、殺意をもって、その頸部を何らかの方法で圧迫し、同人を窒息死させて殺害した。

 第2 被告人は、同日午後11時5分ころ、北海道恵庭市北島39番先市道南8号路上において、前記被害者の死体に灯油をかけ、そのころ、同死体に火を放って焼損し、もって死体を損壊した。

 結論 被害者の携帯電話の移動経路と被告人の足取りとの整合性、被害者の携帯電話の発信先と被告人の精通性との符合性、被害者の携帯電話の被告人による返戻可能性、被害者のロッカーキーの被告人車両内における存置状況、遺品残焼物発見現場と被告人の生活圏及び活動圏との場所的近接性、被告人による被害者の携帯電話、ロッカーキー及びその他遺品の一括的な取得可能性、被告人単独による実行可能性、被告人の殺害動機の存在等を総合すると、殺害の時刻、場所及び態様にある程度の幅を残さざるを得ないとはいえ、判示のとおり、被告人単独で被害者を殺害し、その死体を焼損したことは合理的な疑いを差し挟む余地なく認定できる。よって、弁護人の主張は理由がない。

 裁判官が大越被告に対して「被告人単独で被害者を殺害し、その死体を焼損したことは合理的な疑いを差し挟む余地なく認定できる」とするに至った妥当性について、ここでは検証しない。

 しかし、判決文の「第3 被害者の死因並びに死亡及び焼損の時期」の2である「被害者の死亡及び焼損の時期」については、検証してみたい。

 というのも、判決文に記載された4人の目撃証言のうち、裁判官が「十分に信用」できると判断したものと、「必ずしも否定できない」ものに“分別”されたためである。

 2 被害者の死亡及び焼損の時期

 証人▲▲▲▲(筆者注 02年8月21日の第40回公判で証言)は、3月16日午後9時20分から30分ころ、JR長都駅南側ロータリーに入ってきた三菱パジェロ車を妻による迎えと思って同駅待合室を出て近づくと、停車した同車には20代位の若い女性2人が乗っていた旨供述するが、同証人自身、同車が被害者車両である三菱パジェロジュニアと同車種であるとまでは同定できない上、被告人及び被害者の前記退社時間と対比すると、その目撃時間が関係各証拠から認められる被告人及び被害者の同ロータリー到着可能時間よりも早めであり、同ロータリーの構造自体からして鉄道利用者の送迎のために停車するのが通常であるはずの同ロータリーに被告人及び被害者が停車しなければならないような事情も窺われないことなどに照らせば、同証人の目撃したのが被告人及び被害者であるとは認められず、被害者が前記退社時間である3月16日午後9時30分ころまで生存していたことまでしか明確でない。

 そして、死体発見現場付近住民である■■■■(同 名前は掲載しない)は、公判段階で、3月16日、就寝するために歯磨きや洗顔をしながら自宅1階居間の正確に合わしていた壁時計で午後11時から午後11時5分前の間の時間であることを確認してすぐに上がった2階廊下北向きの2重窓のガラス1枚を通して外のタモの木3本越しに南8号線の道路上で高さ1メートル位までオレンジ色に燃え上がってアーチ型になっているものを見たが、その付近に自動車や人影等は見えなかった旨供述し、捜査段階でも、その目撃時間が同日午後11時か少し過ぎた11時15分ころまでの間に間違いない旨を除いて公判段階とほぼ一貫した供述をし、その炎の目撃時間に関する供述の微妙な変遷について、取調検察官から少々時間に幅を持たしたほうが無難であるように言われ、自らも重大事件であるがゆえに慎重になったからである旨釈明する点でも合理性が認められる。

 また、同付近住民である★★★★(同 名前は掲載しない)の検察官調書によっても、同日午後11時10分ないし15分ころ、飼い犬の散歩のために自宅台所横の裏口から外に出ると、右斜め前方5、600メートル先の南8号線上に横幅がビニールハウス1棟分で高さがその二つ分位のかまぼこ状の明かりが葉の落ちた防風林越しに見え、その濃いオレンジ色の中心部の周囲の色が段々と薄くなり、同日午後11時20分ないし30分ころ、同台所窓を開けて見ると、その明かりの大きさが最初に見たときの3分の1位になって段々と消えかかっていたというのである。本件と利害関係のない第3者的立場にある両名の各供述内容は、いずれも具体的かつ明確である上、その視認可能性等客観的証拠等とも整合した自然かつ合理的なものであって、相互に補強ないし補完し合って十分に信用できる。

 他方、●●●●(同 02年7月17日の第39回公判で証言)は、公判段階で、同日午後11時5分ころ、娘をJR×××駅(同 駅名は記載しない)まで迎えに行くために自動車を運転して自宅を出発し、南8号線に出てすぐの同線と西8線の交差点のやや東側にブレーキランプを赤く点灯したボンゴ車とこれに相前後する小さな車の後部が見えたが、これらの車越しに赤い光のようなものは見えず、同日午後11時15分ころ、同駅で娘を乗せて自宅に向かい、同交差点の南側地点で、先刻の位置より東側に移動停止していた前記2台の車のうちの小さな車に少しかぶさるような感じで赤い光のようなものが見え、パトカーが来ていると思った旨供述するが、捜査段階の3月17日には、自宅を出発して同交差点を右折する際、南8号線に2台の車が止まっていて、テールランプの灯りかどうか分からないが、赤かったような感じであり、午後11時30分ころに帰宅した際、これらの車の状況はわからなかった旨供述していたのであって、重要部分に供述の変遷がある上、その理由として同人が釈明するところも、警察による事情聴取の際、無意識に「見えた」復路の赤い光を意識的に「見た」と言うのは嘘になるとの考えがあり、赤い光を見たこと自体が自分のとって重要であったから往路と復路とを区別せずに供述してしまい、それから10日以上経過して何か変だなと気付いたなどというかなり不可解なものではある。しかし、被害者の死体に着火されて炎上する前に同人が同交差点を右折したために炎に気付かなかったということは十分にあり得るのであるから、前記■■■■及び★★★★の各供述との間に決定的な矛盾があるわけではなく、その第3者的立場や視認可能性等客観的証拠との整合性等をも考慮すると、●●●●の公判段階での供述の信用性を必ずしも否定できない。そして、●●●●の復路での前記2台の車の目撃時刻は、公判段階で供述されていないが、同駅を出発した午後11時15分ころに前記往路所要時間の約10分を加えた午後11時25分ころと認められるから、3月16日午後11時5分ころに被害者の死体に点火され、その後の大炎上を経た上、同日午後11時25分ころにはかなり鎮火に向かっていたものと推認できる。

 以上、判決文の証人による証言を比較すると、JR長都駅に停車した車に20代くらいの若い女性2人が乗っていたと供述した▲▲▲▲の証言は、被害者の橋向香さんが殺害された日の午後9時30分まで勤務先にいたことから「同証人の目撃したのが被告人及び被害者であるとは認められず」とする裁判所の見解は妥当だ。

 また■■■■と★★★★の証言も判決文が「相互に補強ないし補完し合って十分に信用できる」と指摘するように信頼性が高い。

 問題は●●●●の証言である。

 ●●●●は遺体発見現場に近く、橋向さんが焼損されたと推定される時刻にボンゴ車と小さな車を見たと証言しているためだ。■■■■、★★★★と●●●●の目撃内容の相違点は、前者2人が2台の車を見ていないことに対し、●●●●は車を見たという点である。

 上記、判決文は、●●●●の証言に対し「重要部分に供述の変遷がある」としているが、それはあくまでも「赤い光」(筆者注 炎)の目撃に関することであり、2台の車の存在についての変遷はない。

 にもかかわらず、裁判所は車2台が現場にいたとする目撃を軽視している。この証言は極めて重要であり、軽視すべき類いのものではない。軽視するとすれば、▲▲▲▲の証言を「認められず」としたように、その理由を明確にすべきだ。

 ★★★★は、およそ5、600メートルの距離からオレンジ色の明かりを見ているが、●●●●はそれ以上の近距離で車2台を目撃している。つまり、★★★★には見えなかった2台の車を、●●●●が目撃したことに矛盾点はなく、さらには利害関係のない第3者的立場にあることから、裁判所用語を拝借すれば、「合理的な疑いを差し挟む余地はない」はずなのだ。

 大越被告が橋向さんを殺害したとすれば、極めて近くにいたボンゴ車と小さな車の運転手は、その模様を目撃していたはずである。しかし、この2人のドライバーは特定できず、当然、証言を得ることはできなかった。

 証人席に座った●●●●は、三方を間仕切られ、傍聴席からは一切姿が見えなかった。通常、法廷でのこうした措置は、証人の証言により、被告あるいは真犯人に恨みを買うことなどを危惧した裁判所の判断で講じられるものである。

 「恵庭OL殺人事件」の場合は、すでに大越美奈子被告は拘留されており、●●●●の顔は大越被告が見える位置だった。

 この時、●●●●は弁護側の尋問に対し、事件当日の状況を「月が出ていて晴れていた。雪も積もっていたので辺りは明るかった」と自身の目撃証言が揺るぎないものであることを強調し、「いつか共犯者も捕まると思っていた。しかし、いつの間にか単独犯という話になっていたのでおかしいと思った。私自身は、目撃した2台の車が事件に関係していると思っている」と証言した。

 ●●●●が見たのは、あくまでも2台の車であり、犯人ではない。そのため、●●●●は大越被告が犯人かどうかという点には言及していないが、車が2台あった以上、共犯者がいると思ったと述べたわけだ。

 1審判決は、裁判所が判断した4人の証言の信頼性が“明暗”を分けたと言えるのではあるまいか。







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