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恵庭OL殺人事件 控訴趣意要約書 vol.1


 
弁護団は1審・札幌地裁を「恐るべき欠陥判決」と糾弾。
平成12年3月17日午前8時20分頃、恵庭市北島の市道わきで、苫小牧市に住むOL・橋向香さん(当時24)の焼死体が発見された。
この事件で逮捕、起訴されたのは、橋向さんの同僚で日本通運の札幌東支店キリンビール千歳工場内構内課に勤務していた大越美奈子被告。
15年3月26日、札幌地裁の遠藤和正裁判長は、殺人と死体損壊の罪に問われた被告に対し「被告人単独で被害者を殺害、死体を焼損したことは、合理的な疑いを挟む余地なく認定できる」と断罪、懲役16年の判決を言い渡した。
被告は捜査段階から一貫して無実を主張、1審判決を不服とし、即日、札幌高裁に控訴した。札幌高裁(長島孝太郎裁判長)での控訴審は、すでに第12回公判を終え、次回5月24日の公判で結審する。
以下、弁護団が昨年3月、札幌高裁に提出した控訴趣意要約書。
◇ ◇
平成15年(う)第163号 殺人・死体遺棄被告控訴事件
被告人 大越美奈子
控訴趣意要約書
札幌高等裁判所刑事部 御中
平成16年3月22日
主任弁護人 伊東秀子弁護人 奥田保同 秋山賢三同 林 勘市同 房川樹芳同 今村 核同 新川生馬同 八十島保
上記被告人に対する頭書被告事件について、弁護人らは、以下のとおり、控訴の趣意を要約して陳述する。
目 次
第1 恐るべき欠陥裁判…5頁
1.単なる「可能性」があれば、即有罪
2.主観的、かつ、恣意的な認定・説示方法
(1)体格・体力的に劣位な被告人が殺害実行できるか
(2)「三角関係」と殺害の動機
(3)痕跡を何も残さずして殺害実行できるか
3.「証拠」に基づかず、予断・偏見のみに基づいた原判決
第2 本件における初動操作の欠陥…9頁
1.「見込み捜査」から出発
2.現場の足跡の捜査
3.現場の「タイヤ痕」の捜査
4.被害者・被告人車両から採取した「指掌紋」の捜査
5.被害者の携帯電話・短靴の「指掌紋」の捜査
6.杜撰な「アリバイ捜査」
7.被害者のロッカーキーの捜索差押の違法と不合理性
8.現場付近の「2台の車」に関する捜査の欠落
9.被告人の「行動確認捜査」
10.被害者の携帯電話の発着信記録の差押手続の違法性
11.「ガソリンキング」のビデオテープについて
第3 「欠陥捜査」を引き継いだ「欠陥裁判」…18頁
1.被告人のタイヤ痕・足跡・指掌紋が発見されなかった点
2.現場に居た「2台の車」に関して原判決がした推論
3.早来町森内の被害者遺品の焼損について
4.被害者のロッカーキーが「被告人車両」内に存在したことの不合理性
5.携帯電話を巡る争点について
(1)被害者携帯電話の着信記録が「3月17日午前10時13分51秒から同15分15秒までの間」「電源断またはエリア外」であること
(2)被害者携帯電話の移動状況と、被告人の移動との整合性について
(3)3月17日未明、被害者携帯電話機からかけられた7回の電話の架電について
(4)異なる機種の携帯電話の操作上の問題
第4 被害者の死体焼損の供用物件の問題…31頁
1.原判決の問題点
2.再現実験の実施
3.再現実験の結果、判明した事実
(1)犯人が死体に着火したのは、午後11時05分頃ではない
(2)被告人車両のタイヤの損傷は本件とは無関係である
(3)被告人の靴及び着衣、被告人車両の運転席のマットのいずれからも灯油が検出されていない (4)灯油10リットルを用い、かつ、5分間しか現場に居いなかったとすると、本件死体の燃焼程度には至らない
4.結論
第5 被害者の遺体の状態が物語るもの…37頁
1.遺体の開脚について
2.頸部圧迫が死因である場合の頸部の痕跡について
3.遺体が舌を突き出していることについて
4.頸部圧迫死の場合、ふん尿が放出されない場合があり得るか
5.暴行・傷害の痕跡について
6.本件遺体から推測される犯行態様について
第6 被告人は無実である…41頁
1.本件は、複数者か、男性による犯行である
(1)遺体の状態から推認される犯行状況
(2)現場に残された痕跡
2.殺害方法からしても、犯人は被告人ではない
(1)頸部に防御創がない
(2)原判決認定の「殺害方法」では、殺害は不可能である
3.被害者車両がJR長都駅に放置されていた事実は被告人の無実を物語る
4.本件後の被告人車両や被告人の状態
第7 「単なる可能性」があるだけでは有罪判決をしてはならない…46頁
1.最高裁昭和48年甲府放火事件判決
2.犯人ではないから、「痕跡」がない
3.本件は、「免罪の6つの特徴」を全て具備している
4.誤判の是非は控訴審の責務である
記
第1 恐るべき欠陥判決
1.単なる「可能性」があれば、即有罪 刑事裁判において有罪判決が宣告されるためには、「合理的な疑いを差し挟む余地がない程に」「反対事実の存在を入れない程度に」確実な立証が必要である(最高裁第一小法廷昭和48年判決)。
原審の審理過程において、弁護人は、検察官が、この事件については最高裁判決が設定したハードルを超える程度の立証に失敗したものと確信し、一様に無罪判決が下されることを信じて疑わなかった。
何故なら、この事件では、検察官は(1)被告人が被害者を被告人車両の中で殺害した旨主張しているけれども、被告人車両から被害者の指紋、血痕や体液、格闘等の「痕跡」が一切、発見されてはいない、(2)被害者より体格・体力的に劣る被告人が、自らの顔面や身体に何らの抵抗された痕跡も残さずして被害者を殺害し、しかも雪上に靴痕も遺体の引きずり痕も残さずに運ぶことは可能か、(3)被害者の遺体に10リットルの灯油をかけて着火し、直ちに現場を離れた場合、被害者の遺体のような炭化状態に達するのか、等の疑問について、いずれも明確な立証を欠いていたからである。
その他にも、被告人が犯行後、被害者のロッカーに戻したとされる携帯電話が、事件翌日、被告人が在社した時間帯に約1分間余り「電源断またはエリア外」になっている客観的事実、事件当夜、現場付近に少なくとも20分間も停止していた不審な「2台の車」について目撃証言が存在すること、被告人が、警察・マスコミに常時、尾行・監視されていた時期に、監視の目をかいくぐって被害者の遺品を早来町森内で焼却することは可能か、等々の疑問点についても、検察官は疑問を払拭し得てはいなかったからである。
ところが案に相違し、一審では懲役16年の有罪判決が言い渡された。
只、通常の判決とは異なり、この有罪判決には明確な犯罪事実が認定されてはいなかった。原判決に記載されていたのは「犯罪事実」ではなく、「被告人が犯行を実行することは可能であるの推測」だけであった。
原判決の判決文中には、例えば「被告人が犯人である可能性を疑わざるを得ない(原判決16頁)」「被害者使用ロッカー内に戻したものと推認できる(17頁)」「被告人が……(携帯電話を)被害者使用ロッカー内に戻した可能性はある(19頁)」「ロッカーキーのみが放置された可能性が高い(22頁)」「被告人が犯人である可能性は極めて濃厚(22頁)」「被告人は…被害者の遺品を焼損投棄することも可能(24頁)」「被告人車両に積載されていた灯油及びライターが被害者の死体の焼損に使用された可能性は高い(26頁)」「これが殺意に発展することは十分にあり得る(28頁)」「十分に可能(29頁)」「炎上として単に傍観していたものと推認できる(29頁)」「車両内に痕跡が残らないことも十分にあり得る(30頁)」「優に可能である(30頁)」等々、裁判官が有罪判決を言渡した根拠が単なる「可能性」だけでしかなかったことが判決文からも明らかになっている。
2.主観的、かつ、恣意的な認定・説示方法 ところで、わが国裁判所の伝統的な刑事裁判の本義、判決書の基本原則に照らすとき、原判決の推論と認定方法は甚だ乱暴だという他はなく、ひいては一般国民にとっても恐るべき内容を包蔵するものになっている。
司法修習生のための刑事裁判教材である司法研修所編「八訂 刑事判決起案の手引」(法曹会1998年出版)によると、「判決書は判決の内容を証明する文書として極めて重要な意義を持ち、判決の執行に判決書の謄本または抄本が必要とされ、後日、即判力が問題となった場合にもこれがその判定の基礎となる(1頁)」「刑訴法44条が要求する裁判の理由は、主文が導き出された理由のころであるから、その主文に到達した具体的根拠が分かるように記載しなければならない(2頁)」「『罪となるべき事実』の見出しの下に摘示される事実は、それが本来の罪となるべき事実に当るときはもとより、そうでない事実であっても証拠によって認定されたものでなければならない(33頁)」「事実はできるだけ的確に摘示しなければならない(33頁)」「事実の摘示は冗漫にならないように留意しなければならない(34頁)」等と説かれている。
原判決書の判決文の記載は、主観的、かつ、恣意的な事実認定方法に終始しており、判決書中に記載してはならないような乱暴な推論が随所に記されていることを指摘せざるを得ない。
以下、特に目に付く二、三の事例を取り上げ、具体的に指摘することとする。
(1)体格・体力的に劣位な被告人が殺害実行できるか 原判決は「被害者は被告人よりも体格的に身長で約14センチメートル、体重で約3キログラム上回り、腕力的にも強かったことが窮われる」と認定した。
ところが原判決は「しかし、被害者を車両助手席に乗せて何等かの方法で油断させながら、後部座席に移動して不意に背後から頸部を圧迫する物を施し、被害者が頸部を圧迫する物のみに手をかけて振り解くことに集中した場合を含めて、殺害方法や被害者の抵抗方法の如何によっては、非力な犯人が体力差を克服して自分に無傷で被害者を殺害することは十分に可能である」(原判決29頁)と判示したのである。
体力のない者が体力を上回る被害者を、何等かの格闘の痕跡、被害の痕跡を残さずに頸部圧迫により被害者を殺害することが可能か、との疑問に対する原判決の回答が前記の説示であった。しかし、これが何らかの意味のある説明にはなっておらず、「趣旨不明」のものでしかないことは、上記の文節を何度も繰り返し読んでみれば、誰にとっても明らかとなる。
そもそも、「何らかの方法で油断させながら」とか、「不意に」とか、は証拠上全く根拠のない、単なる裁判官の想像上の産物に過ぎない。また、「殺害方法や被害者の抵抗方法の如何によっては」との記述についても、同様に何等の意味もない記述である。そして、最後に「非力な犯人が体力差を克服して自分に無傷で被害者を殺害することは十分に可能である」と述べて、被告人が犯人であってもおかしくない、との強引な結論だけが押し付けられている。
証拠による裏付けもなく、条件次第ではどのようにでも変えられる事情を、あたかも所与の前提のように判決書に記載することは、事実認定を混迷に導くものとして、裁判官のモラル上も厳に戒められているものである。
(2)「三角関係」と殺害の動機 原判決は「被告人が結婚まで意識した板持を奪われたとして、被害者に悪感情を抱いたことを合理的に推認できるのであって、これが殺意に発展することは十分にあり得る」(原判決28頁)と判示する。
しかし、被告人と板持とが「結婚を意識した関係」であったかどうかについては微妙であり、必ずしも一義的なものではない。また、板持の検察官調書によれば、板持と被害者とは、付き合うことに合意してから未だ1週間も経っておらず、肉体関係はおろかキスもしたことがない「清い関係」であって、いわゆる「男女関係」と言える程の間柄ではないことが証拠上も明らかである。
しかるに原判決は、被告人が、(1)板持との結婚を意識し、(2)板持を被害者に奪われたことから、被害者に対して悪感情を抱いた旨「推認」できる、とし、そこから直ちに、(3)「これが殺意に発展することは十分にあり得る」と飛躍し、強引に殺意の存在を断定するのである。
(3)痕跡を残さずして殺害できるか 被告人車両内に何らの殺害痕跡がないことは、被告人が無実である証拠ではないのか、との疑問に対する原判決の回答は、「殺害から間髪を入れずに死体を車両外に下ろすことで、車両内に痕跡が残らないことも十分にあり得るのであるから、そのように痕跡のない被告人車両内で被害者が殺害されなかっとはいえない」(原判決30頁)というものであった。
しかし「間髪を入れずに死体を車両外に下ろした」との証拠はどこにもなく、単なる裁判官の「想像」に過ぎない。また「間髪を入れずに死体を車両外に下ろす」ことにより、何故、痕跡が残らないことになるのか、についても何らかの論証もない。厳密を要する判決理由中の説示としては、到底、許される論述ではないと考える。
3.「証拠」に基づかず予断・偏見のみに基づいた原判決 原判決は、なぜ、証拠に基づく事実認定という刑事裁判の基本原則を投げ捨ててまでして、このような判決をしたのだろうか。
端的に言うならば、本件証拠関係の下では、被告人と本件犯行を結ぶ根拠がないために、何ひとつ確信的判断に基づく事実認定ができなかったところ、それでも尚、無理矢理、被告人を有罪にするためには、原判決のような無理な「可能正論」を駆使する以外に方法がなかったからである。
原判決は、有罪認定に都合の悪い被告人に有利な状況証拠を全て無視し、その上で経験則に反した証拠判断を積み重ね、被告人が犯人である可能性についてのみ、縷々、非論理的な説明を繰り返し、あたかも「事実認定」した外形を装ったものに過ぎない。原判決は、「被告人が犯人である」との「見込み捜査」に始まった本件捜査の欠陥をそのままに引き継ぎ、その欠陥を補完するための「可能性」の説明に終始し、証拠がないために具体的な事実認定ができないまま、それでも尚、被告人を有罪とすることだけには固執したのである。
◇ ◇
※控訴趣意要約書はA4用紙51枚に及ぶため、5回に分けて掲載する。







関連サイト

シリーズ一括読み
http://www.bnn-s.com/news/series_cd13.html






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