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恵庭OL殺人事件 控訴趣意要約書 vol.3


04月24日(日) 01時20分
文:東  



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花束が添えられた恵庭市北島の遺体発見現場(2005年4月撮影)
 “被害者のロッカーキーは、被告人を犯人に仕立て上げる唯一の道具だった”と指摘。

 平成15年3月26日、札幌地裁(遠藤和正裁判長)は、恵庭OL殺人事件の容疑者として逮捕された大越美奈子被告に懲役16年の判決を言い渡した。

 被告は捜査段階から一貫して無実を主張、即日、札幌高裁に控訴した。控訴審は札幌高裁(長島孝太郎裁判長)で開かれており、次回5月24日の公判で結審する。

 以下、弁護団が昨年3月、札幌高裁に提出した控訴趣意要約書のvol.3。

 ◇                         ◇

 第3 「欠陥捜査」を引き継いだ「欠陥判決」
 原判決は、以上「第2」で述べたような「欠陥捜査」をそっくりそのまま無批判に引き継いでいる。その上にさらに原判決は、誤った証拠評価や推論を重ねて、「被告が犯人である可能性」を引き出しているのである。

 ここでは、本件の主要な争点に沿って、原判決の問題点を考察する。

 1.被告人のタイヤ痕・足跡・指掌紋が発見されなかった点
 原判決の判示によれば、「死体発見現場付近で、被告人車両のタイヤ痕や被告人の足跡が発見されなかった点については、被害者の死体発見直後に、車両で臨場した付近住民や消防署員らのタイヤ痕や足跡による消失または判別不能ということで、犯人と被告人とを結び付ける指掌紋が検出されなかった点については、犯跡隠蔽のための払拭、指掌紋の検出または対照の不能ということで、それぞれ合理的に説明可能である」(原判決30頁)としている。

 しかし、捜査報告書によれば、現場の足跡及びタイヤ痕が消失したり、判別不能であった旨の記載は一切なく、複数の足跡やタイヤ痕が採取されている。

 被告人のタイヤ痕と足跡だけが消失したのであれば、その事実を裏付ける証拠が必要である筈であり、「判別不能」な足跡・タイヤ痕の中に、被告人のものが含まれていたのであれば、同じく、それを裏付ける証拠が必要である。

 指掌紋に関しても全く同様である。甲186号証によれば、指掌紋が払拭されていた事実はなく、また、「対照不能」の指紋の中に被告人の指紋が含まれていた証拠は全くない。

 2.現場にいた「2台の車」に関して原判決がした推論
 原判決の判示によれば、「○○○○(※1)の公判段階での供述によれば、(中略)死体発見現場の方向を向いて2台の自動車が停車していて、この間、その2台が同所付近に居続けたことになるが、これを前提にしても、犯人が道路脇での被害者の焼損という極めて目立ちやすい場所で約20分も現場付近にとどまる理由や必要に乏しく、2台の停車位置にしても、殊更にその現場から後進または遠回りして焼損状況を車両正面に見据えるようにしたことになるなど不可解であることなどからすると、2台の搭乗者は、犯人が死体に着火して速やかに逃走した直後、T・O(※2)やM・H(※3)と同様にゴミ焼きなどによる炎上として単に傍観していたものと推認できる」(原判決29頁)と説明している。

 しかし、「2台の車両」が停車していた場所は、積雪時期に、およそ外部の人が通ったり停車する場所ではない。また、その車に乗車していた者は犯人の行動の一部始終を目撃していたことになるが、本件が大々的に報道された後も警察に通報しておらず、しかも、当日は約20分間以上も現場で傍観し続けていたことになる。このようなことは経験則上、到底、あり得ないことである。

 犯人は、証拠隠滅のために死体を焼損したと考えるのが合理的であり、そのために、死体の燃え具合を見届ける必要性から、炎がしっかり見える場所で、それを監視していたと解するのが自然であり、合理的である。

 そもそも「2台の車」が現場近くに居たという事実は、本件が複数犯による犯行であることを強く推認させる極めて重要な事実である。したがって、原審裁判所は、「2台の車」に関する捜査資料を証拠として顕出させ、審理を十分に尽くすべきところである。にもかかわらず、あえてそれをしないままに、本件犯行が共犯により行われた可能性をいとも簡単に排斥し、無理矢理、経験則に反する事実認定を行ったのである。

 3.早来町町民の森内での被害者の遺品の焼損について
 原判決は、「警察官の監視が専ら被告人車両を中心とする間断的なものに過ぎなかったのであるから、被告人は、自宅から比較的離れて駐車している被告人車両を使用しないで抜け出した場合は勿論、被告人車両を用いた場合であっても、監視の目を免れて生活圏である自宅からわずか約3.6キロメートル先の活動圏内として土地勘もある早来町民の森内の遺留品残焼物発見現場(※4)までを優に往復し、被害者の遺品を焼損投棄することも可能である」(原判決23頁〜24頁)と判示する。しかし、原判決の判断はおよそ経験則に反した無茶苦茶な判断である。

 原判決によれば、被告人は、警察官の行動確認の合間をかいくぐって、堂々と自分の車両を運転しあるいは徒歩により、被害者の遺品を早来町の森内に焼き捨てに行ったことになる。しかし、この際もし仮に、警察官にこの行動を発見されたならば、直ちに犯人として逮捕されることが明らかであり、被告がなぜ、そのような危険を犯してまで、この時期に、この場所で、そのような行動を取ったのか、について合理的な説明が全くない。

 さらに原判決によれば、被告人は約3.6キロメートルの距離を徒歩で往復したことにもされているが、人間の徒歩の速度は時速4キロメートルであるから、往復だけで約2時間もかかることになる。しかも、被告人は重い灯油と被害者の遺品を持って歩いたことになるわけであるから、遺品を焼く時間を加えるならば、警察官による監視の合間に町民の森を往復することなど全く不可能である。

 原判決の判示は、一審裁判官が、如何に、当たり前の人間行動としての経験則を無視し、捜査機関や検察官のいうがままをひたすら盲信し、被告人を犯人に仕立て上げようと努力したか、を如実に物語る部分である。

 4.被害者のロッカーキーが「被告人車両」内に存在したことの不合理性
 (1)原判決の推認した事実
 本件ロッカーキーが、被告人車両から発見されたことの不可解さについては前述した。ロッカーキーが被告人車両から発見されたことが事実であれば、第三者が入れたか、被告人が入れたのかのいずれかである。その点について、原判決は次のように判示している。

 「ロッカーキーのみが被告人車両内に残された理由にしても、罪証隠滅工作の一環として被害者のバッグを開けて被害者の携帯電話またはロッカーキー自体を出し入れした際に、ロッカーキーがグローブボックス内に落ち、これに気付かないで被害者の携帯電話やバッグを持ち出して処分し、ロッカーキーのみが放置されていた可能性が高い。そうすると、被害者のロッカーキーは、被害者の殺害に伴って犯人の保管下に置かれ、少なくとも被告人の関与を経て被告人車両内に放置されるに至ったものと合理的に推認できるから、被告人が犯人である可能性は極めて濃厚である(原判決22頁)」

 しかし、以下の点からして、原判決の判示は、到底、合理的に成り立ち得ないものである。

 (2)被告人が被害者のバッグを所持していたという認定の誤り
 当該ハンドバッグは未だに発見されておらず、被告人がそれを所持していたとする証拠は皆無であり、被告人が被害者のハンドバッグを入手していたという原判決の事実認定自体、まったく証拠に基づかない独断でしかない。ロッカーキーの存在は、被告人の有罪認定において非常に重要であるが、とするならば、裁判所の名誉にかけてもはっきりとした証拠を示すべきである。

 (3)当該ロッカーキーが被害者のハンドバッグにあったという認定の誤り
 Y・S(※5)証人も証言しているように、配車センターの女子社員は、誰もロッカーに鍵は掛けてはおらず、そのため、Y・Sもロッカーキーを日常的にハンドバッグに入れて持ち歩くことはなく、その所在には無頓着であった。被害者のロッカーキーには、前任者のS・Mが母から貰った北海道神宮のお守りの鈴がついていた。もし、被害者がロッカーキーを日常的に使っていてハンドバッグなどに入れて持ち歩いていたのであれば、他人の使っていたお守りの鈴を付けたままであるはずがない。被害者は非常に几帳面な性格の持ち主であり、かつ、女性一般の心理としても、他人の使っていたお守りの鈴をそのまま使うはずがなく、すぐに自分のキーホルダーと付け替えるのが通常である。同人がロッカーキーを使っておらず、持ち歩いていなかったからこそ、本件ロッカーキーには前任者のお守りの鈴がつけられたままだったのである(甲135)。さらに、被害者の実姉M・H氏の供述調書(甲330)において、同人は被害者のハンドバッグの中に確実に入っていたもの、入っていた可能性のあるものを詳細に供述しているが、その中には鈴つきの本件ロッカーキーは入っていない。

 このように、本件証拠関係から見ても、本件ロッカーキーは被害者のハンドバッグには存在しなかったと推認するのが合理的である。本件ロッカーキーは、被害者のロッカーの棚の受け皿に放置されていた可能性が高く、本件殺害当日、被害者のハンドバッグの中にあったという原判決の推認自体が明らかに誤りであること、原判決の「ロッカーキーが被害者の殺害に伴って、犯人の保管下に置かれた」という認定が、本件証拠やY・Sらの証言に明らかに反した謝った事実認定であることが明白となる。

 (4)ロッカーキーが発見された頃の捜査の進捗状況
 ロッカーキーが発見された4月14日は、捜査機関がマスコミの面前で被告人を任意同行した日であり、マスコミ報道で被告人を犯人視する世論を高めようとしていた時期であった。ところが、この任意同行は、被告人と被害者を結び付ける物証がないために警察が被告人の自白をとる目的で行ったことが後になって明らかになっている。

 当時、被告人と被害者を結び付けるものとしては携帯電話の発着信記録以外に何もなく、被害者のロッカーキーは警察官が容易に入手することのできた唯一の物証であり、被告人を犯人に仕立て上げるために工作できる唯一の道具だったのである。それ故、あえて違法な捜査を実施したと考えられる。

 (5)なぜ、いつ、ロッカーキーが被告人のグローブボックスに落ちたのか
 被告人車のグローブボックスの位置は助手席にあり、自車両をいつも運転していた被告人が助手席にいること自体不自然である。被告人は、どのような必要性から助手席に移り、いつ、どこで、ハンドバッグを開けてロッカーキーを出し入れしたのかについて、原判決はきちんとした認定を何もしていない。原判決は、合理的説明が何もできないまま、ひたすら一方的に、被告人に極めて不利益な「推認」のみを弄しているのである。

 (6)ロッカーキーが落ちたことに気づかないことの非合理性
 原判決によれば、被害者の携帯電話がロッカーに戻されたのは、3月17日午後零時36分頃から同日午後3時05分頃迄の間であると認定しているから、ロッカーキーがグローブボックス内に落ちたのは、それ以前の3月17日未明ないし午後3時5分以前ということになる。しかるに、4月14日に行われた検証調書(甲127号証)によれば、グローブボックス内から3月18日付と3月26日付の給油納品書(領収書)が発見されている。ということは、被告人は3月18日と3月26日の少なくとも2回はグローブボックスを開けたことになり、このときに落ちたままのロッカーキーに気付くはずである。

 さらに、本件キーには鈴が付いており、落としたら必ず鈴の音がするはずであり、被告人は鈴の音から本件キーが落ちたことに気がつくはずである。このような重要な点について、原判決は何の説明もできていない。原判決のいい加減さが如実にあらわれているものである。

 (7)ハンドバッグとグローブボックスの大きさ
 なお、付言するならば、原判決は、被告人が被害者を殺害後に同人のハンドバッグを入手し、それを自車のグローブボックスの中に入れていたと想定しているかのようにもとれるもので、その点について述べる。

 被告人が、被害者のハンドバッグを入手していた証拠が皆無であること、したがって、原判決の事実認定が謝っていることは既に述べた。それはさておき、物理的にも、被害者のハンドバックがグローブボックス内に保管されていたことはあり得ない。なぜなら、当該グローブボックスの横幅は、被告人車両助手席マットの前方の幅が34センチメートル(甲126号証)であるから、34センチメートルより狭いことは明らかである。一方、ハンドバッグの大きさは、縦23センチメートル、横33センチメートル、幅12センチメートルであって(甲330号証)、諸々の雑物が入っているダッシュボード内にハンドバッグがそのまま入らないことは明白である。したがって、ハンドバッグがグローブボックスの中に入っていたということは不可能である。

 (8)結論
 以上に見られるとおり、原判決の推認した事実は、明らかに証拠に基づかない誤った事実認定であり、本件ロッカーキーが被告人車両のグローブボックスから発見されたことをもって被告人を有罪とすることは、明白かつ重大な誤判につながるものである。

 5.携帯電話をめぐる争点について
 (1)被害者携帯電話の着信記録が、「3月17日午前10時13分51秒から同15分15秒迄の間」「電源断またはエリア外」であること
 原判決は、「携帯電話の電源が入っていたとしても、障害物や方角等による電波状態次第で一時的に通話不能に陥ることは十分にあり得るのであるから、前記時間帯に被害者の携帯電話の電源が切られたとは限らない(原判決18頁)」と判示した。

 しかし、配車センター事務所の内外において、過去の障害物のために携帯電話が「エリア外」になったという事態に関する証拠は皆無である。

 また、同一の場所において、着信する電波の方角等の電波状態により、「エリア外」になったりする場合があるという科学的根拠、あるいは経験則の存在については具体的な主張も立証もない。にもかかわらず、原判決は、全くの独断に基づき、経験則に反し、かつ、科学的な合理性を欠いた事実認定をしたのである。

 (2)被害者の携帯電話の移動状況と被告人の移動との整合性について
 (ア)原判決は、以下の論理を用いて、被告人が犯人であると根拠した
 すなわち、原判決は、「被害者の携帯電話は、(1)3月17日午前零時5分頃から6分頃までの間、4回発信しているが、その電波は千歳BSセクター3で捕捉され、(2)同日午前3時2分頃、3回発信しているが、その電波は早来BSセクター1で捕捉され、(3)同日午前9時29分頃から午前11時52分頃までの間、15回受信しているが、そのうち14回が長都BSセクター1及び2、千歳BSセクター6及び1で捕捉されている。

 一方、被告人は、(1)同月16日午後11時36分頃、恵庭市住吉町253番地所在の「ガソリンキング」でガソリンを給油し、千歳BSセクター3の捕捉範囲内を通過した上、(2)翌17日午前1時43分頃、ローソン早来栄町店で買い物をして早来BSセクター1の捕捉範囲内にある自宅に戻り、(3)同日午前8時20分頃、長都BSセクター1及び2と千歳BSセクター6及び1の捕捉範囲内にある配車センターに出勤するなど、被害者の携帯電話と同様の移動をしたことが認められるとしつつ、「殊に、早来町に生活圏があって千歳市を通勤圏内に含みながら工場構内課に勤務し、その足取りが被害者の携帯電話の移動状況と整合し、かつ、被害者と板持との交際関係も知っていた被告人が犯人である可能性を疑わざるを得ない(原判決16頁)」と説示している。

 (イ)原判決の事実認定の誤り
 <1>発着信記録と携帯電話の所在
 原判決は、3月17日未明の被害者の携帯電話の発着信における使用基地局のエリアと、被告人の同時間帯の行動範囲に整合性があるとして、被告人を有罪とする根拠とした。

 しかし、発着信記録の(使用基地局)欄は、携帯電話の存在の方向を示すだけであり、その位置を特定することはできない。すなわち、あるBS局のあるセクターを通じて電波が発信されたことをもって、その近傍に携帯電話が存在するとして位置を特定することはできない。

 <2>甲195号証における基地局の位置の誤り
 甲192号証については、当の作成者であるS・T証人が、第12回公判において、その正確性には担保がない旨証言している(公判調書48頁ないし52頁)。

 それにもかかわらず、その甲192号証に基づいて、甲195号証・甲196号証が作成され、その中に各BSセクターの位置が記載されている(I公判調書3頁・11頁)。しかも、甲195・甲196号証の各基地局の記載は、約150メートルの誤差があることを作成者が自認している(I調書22頁)というのである。

 このように甲195号証の基地局の位置そのものが正確なものではないのである。

 <3>距離の計算の誤り
 もし仮に、原判決の論理に立ち、かつ、甲195号証の正確さはさておいても、次に述べるとおり、被告人は、3月17日午前零時5分頃には、千歳BSセクターの捕捉する地域をとっくに通過しているのである。すなわち、a.ガソリンキングは甲195号証上のシ地点に位置しているが、シ地点は、甲195号証上では、《9》に位置する千歳BSセクター3(東南東の各30度の幅)とは全く逆方向であり、同セクター3によって、ガソリンキングが捕捉されることはあり得ない。ガソリンキングは恵庭BSセクター(甲195号証上では、《13》)で捕捉される筈である。b.他方、ガソリンキングから千歳BSセクターまでは、甲195号証上で約12.5センチメートルであり、同書証は5万分の1の地図であるから、実際の距離は約6.25キロメートルである。

 また、千歳BSセクターから千歳空港BSセクター(甲195号証上では、《10》)、新千歳空港BSセクター(甲195号証上では、《11》)までは約13.5センチメートルで、実際の距離にして、約6.75キロメートルである。したがって、ガソリンキングから千歳BSが捕捉する範囲内である千歳BSセクター、千歳空港BSセクターや新千歳空港BSセクターとの中間地点までは約9.625キロメートルとなる。

 被告人が、時速50キロメートルの速度で走行すれば(原判決が認定した被告人の速度)、約19分でその中間地点に到達する。被告人は、午後11時36分頃「ガソリンキング」を出たから、19分後の午後11時55分以降は、千歳BSセクターで捕捉されることはあり得ない。その時刻には、千歳空港BSセクターや新千歳空港BSセクターにて捕捉されることになる。

 c.したがって、被害者の携帯電話の発信時間の午前零時5分31秒から同6分49秒頃、被告人は、すでに千歳BSセクターによって捕捉されるエリアをとっくに通過してしまっているのであり、千歳BSセクターの捕捉範囲に所在しなかったものである。

 よって、被告人の移動と被害者の携帯電話の移動とは合致しておらず、原判決の認定は明白な誤りである。原判決の認定は、明白に距離の認定を誤ったものである。

 <4>早来BSセクターでの捕捉について
 仮に、甲195号証の記載が正しいとしても、早来BSセクターの真北を甲195号証の北の方向に合わせれば、被告人の自宅(甲195号証上では、オ)は、早来セクター1と3の捕捉範囲であるから、早来セクター1だけではなく、双方で捕捉されなければならない。

 したがって、この点についても原判決は、漠然とした「直感的感覚」のみに依存したものに過ぎず、短絡的な誤った判断であることが明らかである。

 (3)3月17日未明、被害者携帯電話からかけられた7回の電話の架電について
 (ア)原判決は、甲217号証上段の「発信状況」記載の3月17日の午前零時5分31秒から同6分29秒までの4回、午前3時2分9秒から3時2分38秒までの3回にわたって、被害者の携帯電話からかけられた相手方電話番号について、「関係各証拠によれば、被害者の殺害後、被害者の携帯電話から、(1)配車センター1階事務所内壁面に表示されているが、電話帳未登載で関係者以外には知り得ない24時間通話可能なキリンビール千歳工場代表電話(0123××××××××)に、(2)同分56秒から同6分00秒までの間、被害者との交際を被告人ら特定の者にしか知られていない板持貢が、3月7日頃に紛失したのを同僚も知っていた板持貢の携帯電話に、(3)同分04秒から同分05秒までの間、前記代表電話に、(4)同分29秒から同分49秒までの間、工場内部の電話一覧表に搭載されるが、外部未公表のキリンビール千歳工場施設管理室(0123△△△△△△△△)に架けられている)と認定した上で、上記3つの電話番号を知っている者は、「被害者の上記勤務先や交際関係に精通しているキリンビール事業所部内者である可能性が高く、……被告人が犯人である可能性を疑わざるを得ない」と結論付けている(原判決14頁〜16頁)。

 しかし、原判決認定のような、被害者携帯電話から上記3件の電話番号に架電されていることをもって、「犯人は被害者の勤務先や交際関係に精通している者である」との結論を導くことは誤っている。

 以下に、その理由を述べる。

 (イ)上記4回の架電の発信間隔は7秒間、4秒間、24秒間であり、3回の発信間隔は4秒間、13秒間と短時間であり、これらの発信は、携帯電話機の着信履歴とメモリダイヤルを使って行われた可能性が高い。

 この事実を裏付けるものとしては、J・Y証人(第11回公判)は、次のとおり証言している(証言調書56〜57頁)。

 「犯人がこの携帯電話を持っていたとした場合、発信元電番が着信記録に残っていたと思われるものについて、新しい順に、(1)(2)(3)と記入していってもらって、一番古い着信記録について、(20)というふうに記入してもらえますか」との検察官の問いに対し、J・Y証人は、同証言調書末尾添付の090□□□□□□□□着信状況という書面に、(1)〜(20)と記入した。同証人が、公判で記入した同書面を見ると、3月17日の時点で、被害者の携帯電話機に記録されていた20項目の着信履歴の20番目に、0123△△△△△△△△が、19番目に0123××××××××が記録されている。そして、それらの着信履歴の電話番号は、ファンクションボタン(【F】ボタン)、クリアボタンを(0.5秒以上)押してから、中央にある矢印のついたボタンの上向きのボタン(【▲】ボタン)を1回押すと20番目の番号が、その矢印付きの上向きボタンを2回押すと19番目の番号が表示されると証言している(同調書57頁〜58頁)。

 つまり、0123△△△△△△△△の電話番号への架電は、最初にファンクションボタン、そしてクリアボタンを0.5秒以上押してから、上向き矢印ボタンを1回押して着信履歴20番目の0123△△△△△△△△の番号を出して架電することができ、さらに、上向き矢印ボタンを2回押せば、着信履歴19番目の0123××××××××が出てくるので、そこに架電することができるのである。しかも、(1)から(18)の発信元は、被害者とH・S(※6)であり、全て非通知である(被告人の当公判廷での証言及び甲219号証、上欄に3417と記載されている頁)。

 ところが前記0123△△△△△△△△と0123××××××××の電話番号は非通知でないから、被害者の着信履歴20項目のうち、電話番号が表示されるのはこの2つだけということになる。

 したがって、2つの電話番号への架電は被害者の携帯電話の着信履歴の操作でかけられた可能性が高い。

 本件の犯人は、被害者の携帯電話の発信履歴を消去していたことからすると、被害者の携帯電話機の機種操作に習熟していたものと推認される。とすれば、本件真犯人は、被害者の勤務先に精通している者という限定は成り立たず、むしろ、被害者の携帯電話機の操作方法を習熟している者の範囲に広がる筈であって、原判決の導き出した論理は誤っている。

 (ウ)また、板持貢の携帯電話(090○○○○○○○○)は、被害者のアドレス帳に記録されていた(甲335号証)。携帯電話のアドレスは、通常、ア行から始まって表示されるから、上記の番号はアドレスの2番目に表示されることになる(甲335号証)。

 本件の真犯人は、被害者アドレス帳の2番目(090○○○○○○○○)のボタンを押した可能性が高い。その後の発信は、リダイヤルすればよいだけである。

 (エ)以上の事柄を勘案するならば、これら7回の発信は、被害者の携帯電話の発着信履歴またはメモリダイヤルを使って架電されたものであり、原判決が認定したように、関係者以外に知り得ない会社内の電話にかけられているとの理由から直ちに、「被害者の勤務先や交際関係に精通しているキリンビール事業所部内者である可能性が高い」という結論を導くことは、到底、できない筈である。

 (オ)以上に述べたとおり、原判決が、前述の(1)ないし(4)の理由により、「被告人が犯人である可能性を疑わざるを得ない」とした原判決の判断は、本件証拠に基づかない全くの独断である、と言わざるを得ない。

 (4)異なる機種の携帯電話の操作上の問題
 (ア)被害者の携帯電話機は、電話会社が北海道セルラー(現在のau)・日立製作所製のC302H型であり、被告人の携帯電話機は、電話会社がNTTドコモ・日本電気株式会社製のデジタル・ムーバN207S HYPER型・製造番号がWZA13987044のものである(甲30、52号証)。

 これら2つの異なる電話会社、異なるメーカーの携帯電話機の操作方法を比較して記載したものが後綴の表1である(甲30号証)。

 (イ)この2種の携帯電話機の操作方法をみると、まず表1の「(1)電源を入れる」の操作から異なっている。「(2)電話番号を入力してかける」の操作は、ほぼ同様である。前述したように上記7回の発信操作は、被害者の発着信履歴またはメモリダイヤルからの発信操作の可能性が高く、その操作は表1(3)(4)(5)のとおりに異なっている。表1に示されたような電話会社、製造会社が異なる携帯電話機を使う場合は、携帯電話を通常使用している者でも、敏速な操作は困難なのである。

 (ウ)また、携帯電話機が3月17日午後に発見された時点では、発信記録が全て消去されていた。更にまた、原判決が認定したように、被告人がこの携帯電話機を3月17日の勤務時間帯に保持していたとすれば、着信の度に着信音がならないようにする設定も必要とされるが、それらの操作は被害者と被告人の携帯電話では(6)(8)のように異なっているものである。

(エ)以上のとおり、被告人が自分の携帯電話機とは異なる会社製品であって、異なる機種のこれらの難しい操作方法を、殺人・死体焼損を犯した直後の興奮した精神状態の下で、短時間に習得して操作することは、到底、不可能であるという他はない。

 しかも、被告人は「非通知」で発信すれば、相手方の着信記録には残らないと信じ込むほどに、携帯電話の動作には知識の少ない「機会音痴」であったのである。

 ◇                         ◇

(※1)遺体発見現場近くで2台の車を目撃した○○○○証人は、第40回公判に出廷、裁判所の了解を得て名前を伏せて証言したため、○○○○とした。

(※2)T・Oは遺体発見現場で炎を見たと1審第7回公判で証言した証人。

(※3)M・Hも同じく遺体発見現場で炎を見た人物。

(※4)遺留品残焼物発見現場には、眼鏡ケース、ビューラー、鏡、包装紙片、バインダー様閉じ具、鍵、キーホルダー、ビニール塊があった。

(※5)Y・Sは被告、被害者の元同僚で1審第4回公判で証言した。

(※6)H・Sは被害者の学生時代からの友人。 







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