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恵庭OL殺人事件 札幌高裁判決要旨


 
弁護団は上告趣意書を準備中。
平成12年3月17日、苫小牧市に住むOL・橋向香さん(当時24)が恵庭市北島の市道で焼死体となって発見された恵庭OL殺人事件。
殺人と死体損壊の罪に問われたのは、元同僚の大越美奈子被告。大越被告は逮捕から公判まで一貫して無罪を主張してきたが、15年3月26日、札幌地裁(遠藤和正裁判長)は懲役16年の有罪判決を言い渡した。
大越被告は判決を不服として即日控訴したが、札幌高裁(長島孝太郎裁判長)は、1審・札幌地裁の判決を支持し、被告の控訴を棄却した。以下、札幌高裁の判決要旨。
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本件控訴を棄却する。
当審における未決勾留日数730日を原判決の刑に算入する。
理 由
第1 本件の争点は、被告人が、被害者橋向香を殺害し、その死体を焼損したかどうかである。
第2 被害者の携帯電話の発見状況等から推認できる犯人像
犯人は、被害者を殺害し、その死体を焼損した後の3月17日午後零時36分から同日午後3時5分ころまでの間に、配車センターの2階女子作業員詰所内の更衣室に入り、被害者のロッカー内に電源を切って携帯電話を戻したか、既にロッカー内に戻しておいた被害者の携帯電話の電源を切っている。この事実や同詰所は、本件犯行の約20日前である2月25日に1階から2階に移転したばかりで、部外者がそれを知り得る状況でなかったことなどを考えると、犯行は被告人を含め当時のキリンビール事業所従業員であると合理的に推認できる。
第3 被告人の犯人性を示す間接事実の存在
1 被告人車両から被害者のロッカーキーが発見された事実
4月14日午前9時20分から、千歳警察署において、被告人車両の検証が行われたが、その検証中、助手席前グローブボックス内から被害者のロッカーキーが発見された。ロッカーキーが被告人以外の者によって被告人車両に入れられた可能性は考え難いことからすると、この事実は被告人の犯人性を示す有力な間接事実である。
2 被害者殺害後の犯人の動きと被告人の動きが一致する事実
犯人は、被害者の死体を焼損した後、3月17日午前零時5分ころから6分ころまでの間に、セルラーの基地局千歳BSセクター3で捕捉される範囲に移動し、同日午前3時2分ころに早来BSセクター1で捕捉される範囲に移動し、その後同日午前9時29分までの間に長都BSセクター1及び2と千歳BSセクター6及び1で捕捉される範囲に移動するとともに、同日午後零時36分から同日午後3時5分ころまでの間に、配車センターの2階女子作業員詰所内更衣室に入っている。
他方、被告人は、3月16日午後11時30分43秒にガソリンキング恵庭店に立ち寄って給油し、千歳BSセクター3の捕捉範囲内を通過し、翌17日午前1時43分ころ、被告人の自宅付近のローソン早来栄町店で買い物をして早来BSセクター1の捕捉範囲にある自宅に戻り、同日午前8時20分ころ、長都BSセクター1及び2と千歳BSセクター6及び1の捕捉範囲内にある配車センターに出勤し、被害者の携帯電話が発見されるまでキリンビール事業所内で働いており、犯人ないし被害者の携帯電話の動きと同様の動きをしていることが認められ、この事実も被告人の犯人性を示す有力な間接事実である。
また、犯人は、被害者殺害後、被害者の携帯電話から被告人の元交際相手であり、当時被害者と交際していた板持貢の携帯電話に電話している。犯人は、板持の携帯電話の番号を知っていたか、わざわざ「板持」の名前を入力して番号を呼び出したか、その他の方法で被害者の携帯電話のメモリダイヤルを検索して45件登録されている中から板持の電話番号を選んだということになるが、犯人の板持への電話が偶然であったとはおよそ考えられず、犯人は、意識して板持の携帯電話に電話をしたということができる。このことは、犯人が板持と特別なかかわりや思いのある人物であることを示しており、被告人はこの犯人像に当てはまる。
3 被告人が事件の直前に灯油を購入し、事件後灯油を再購入している事実及びこれについての被告人の供述の不合理性
犯人は灯油類を用いて被害者の死体を焼損している。他方、被告人は、事件の当日で、その直前である3月16日午前零時ころ灯油を購入し、4月1日ころ更に灯油を購入したこと、3月16日購入した灯油は発見されていないこと、被告人車両助手席マットから灯油の成分が検出された事実が認められ、そして、これに関する被告人の弁解は不自然、不合理であるし、弁護人にさえも3月16日購入した灯油をそのまま持っていたと虚偽の供述をしていたことなどからすると、被告人が3月16日購入した灯油を用いて被害者を焼損したことを強く窺わせており、これも被告人の犯人性を示す間接事実である。
4 被告人車両のタイヤに高熱によってできたと推定される損傷があった事実
事件直後である3月20日、被告人車両に装着されていた左前輪タイヤの設置面に損傷があったことが確認されているが、この損傷は、摂氏250度から290度の高熱を帯びた物体に数分以上触れて出来たものと推定される。この損傷は、自動車の通常の使用状況の中で到底できるものではなく、他人がいたずらして生成されるような損傷でもないから、このような損傷ができた原因としては、被害者を焼損した際、被告人車両がその近くにあったことのほかは考えにくく、これもまた被告人の犯人性を示すひとつの間接事実である。
5 被告人に土地勘のある場所から被害者の遺品残焼物が発見された事実
4月15日午後4時20分ころ、勇払郡早来町字北進157番地の町道早来本郷線から東方約9.3メートルの作業道路の路肩で、被害者遺品残照物が発見されている。この場所は、被告人宅から約3.6キロメートルの地点である上、土地勘がなければ容易に行きつくことの出来ない場所であるが、被告人は、この付近の土地勘があったことが認められる。加えて、被告人が買い直した灯油ポリタンクには9.5リットルの灯油しか残っておらず、不足分の500ミリリットルについての被告人の弁解は信用し難く、それが遺品の焼損に使われた可能性が高い。これらの事実も被告人の犯人性を示すひとつの間接事実である。
6 被告人に被害者殺害の動機が存在する事実
被告人は板持との結婚を意識していたが、板持にその気がないことを告げられ、板持と被害者が会っているらしき場面を見た直後から、被害者に230回もの電話を掛けていること、そのことについての被告人の弁解の不自然性ないし虚偽性、そして、被告人は、被害者に無言電話を掛けたことが自分が犯人と疑われる理由になるとは思っていなかったと言いながら、弁護人に対し、しばらくそのことを否定したり、打ち明けていないことなどの事実に照らせば、被告人が被害者に悪感情なしは憎悪の気持ちを抱いていたことは明らかであって、これは十分殺害の動機となりうるものである。
7 被告人以外のキリンビール事業所従業員に犯人の可能性のある者は存在しないこと
犯人はキリンビール事業所従業員であると推認できるが、その従業員のうち被告人と4名を除き、本件犯行の犯行時間帯である3月16日午後9時30分から同日午後11時30分までの間について明確なアリバイが認められ、残りの4名については、アリバイについての裏付けがとれていないものの、被害者を殺害する動機となるような事情はもとより、犯行とかかわりを持つ可能性は全くない。犯人性を疑えるキリンビール事業所従業員の中に、被告人を除いては、犯行の動機があり、犯行とかかわりを持つ可能性のある者は存在しない。
8 まとめ
1ないし7の事実、そして、被告人は、3月16日午後9時30分過ぎころ、被害者と二人で職場を退社し、判明している限り被害者と最後に接触した者であり、被害者はその後2時間足らずの間に殺害され死体を焼損されていることを総合すると、被告人が犯人であると強く推認でき、アリバイが成立するなど被告人が本件犯行自体や犯人がとった行動に及ぶことが不可能である、ないしはそのように判断することに不合理、不自然な事実が存在するとの事情が認められない限り、被告人が犯人であると断定できる。
第4 被告人の犯人性を覆す事実の有無
1 被告人のアリバイの存在の有無
被害者死体の焼損開始時刻は遅くとも3月16日午後11時5分ころであり、死体焼損現場からガソリンキング恵庭店までは20分程度で着くことが可能である。したがって、被告人が3月16日午後11時30分43秒にガソリンキング恵庭店にいたことは、被告人のアリバイとはならず、かえって、被害者の死体が焼損された時刻と場所に近接した時刻、場所に被告人がいたことは、被告人の犯人性を示すひとつの間接事実といえる。
2 被告人の被害者殺害等の不可能性
(1) 被告人の握力及び体力、被害者との体格の差等から被害者を殺害することは不可能であるとの主張について
被害者の死因は、頸部圧迫による窒息死であるが、捜査官の行った実験結果や法医学の専門家である上野正彦証人の証言によれば、原判決が判断するとおり「殺害方法や被害者の抵抗方法の如何によっては、非力な犯人が体力差を克服して自分に無傷で被害者を殺害することは十分に可能である」といえ、被告人と被害者の体格差等から被告人が被害者を殺害することが不可能であるとはいえない。
(2) 灯油10リットルでは、被害者の死体が炭化状態になることはない旨の主張について
被害者の死体は相当部分が炭化状態になっているが、弁護人らが灯油10リットルを使用して豚の燃焼実験を行ったところ、炭化状態にまでは至らなかったことが認められる。しかし、人間の皮膚と豚の皮膚の差異、焼損を開始した時点での体温の差異、灯油の滞留状態の差異、そして自然条件自体にも自ずと差異があることを照らすと、豚の燃焼実験から、灯油10リットルでは本件死体のように焼損することが不可能であるとはいえない。
(3) 被害者車両がJR長都駅に放置されていたことは、被告人による犯行が不可能であることを示しているとの主張について
被告人車両は長都駅南側路上に放置されていたが、被害者は、被告人と何らかの約束をしていたか被告人に言われて、自分の車両を運転して長都駅へ向い、同駅南側駐車場近くに自車を駐車した後、一緒に長都駅まで来た被告人車両に乗車したというのは十分想定できる事柄であり、被告人と被害者が午後9時40分ころ退社したとの前提に立っても、被告人がガソリンキング恵庭店に入店した午後11時30分までの約1時間50分の間に、被告人が長都駅で被害者を乗せ、その後被害者を殺害し、死体焼損現場まで運び、社内から被害者を引きずり出し、予め車内に積載していた灯油でその死体を焼損し、ガソリンキング恵庭店に入店することは十分可能である。
3 被告人が犯人のとった行動をすることの不可能性
(1) 弁護人は、被告人が被害者の携帯電話を被害者のロッカーに戻すことは不可能であるというが、3月17日昼休みの間、被告人は他の女性従業員と一緒に被害者のロッカーがあった室内で昼食をとっており、同じ室内とはいえ、昼食をとった場所からは、被害者のロッカーは他のロッカーによって視界が遮られる場所にあるから、他の女性従業員に気付かれることなく、被告人が昼休みの間やその他の時間帯に被害者の携帯電話を被害者ロッカーに戻したり、被害者のロッカーにあった携帯電話の電源を切るのは十分可能であり、これが不可能であったとは到底いえない。
(2) 弁護人は、被害者の遺品が焼損投棄されたころは、被告人は警察官に監視されていたことなどから、被告人が被害者の遺品を投棄するのは不可能であるというが、警察官による被告人の監視はとぎれとぎれに行われたものにすぎないなど、被害者の遺品の投棄が不可能であったとの事情は認められない。
4 被告人の犯人性に疑いを生じさせる事実の有無
(1) 被告人車両に被害者の血痕や尿斑、指紋等の痕跡がないことについて
被告人車両内から被害者の血痕や尿斑、指紋等の痕跡は発見されていないが、上野証人は、出血しない場合や毛髪や血痕が付着しない場合もある、被害者が生理中であれば、生理用品の使用により、尿斑が出ない可能性がある、犯行から日数が経過すれば犯人がそれを取り除くような隠滅的な行為をする可能性が多々あることをも証言しているのであって、被告人車両に血痕や尿斑等の痕跡がないことから、直ちに被告人の犯人性が否定されるものではない。また、被告人車両内を検証し指紋等を採取したのは、本件犯行から約1か月近く経過した4月14日のことであって、その間、被告人が車両内を清掃することは極めて容易なことであるし、そもそも被告人車両内からは被告人自身の指紋さえも検出されておらず、被害者の指紋が検出されないことも何ら不自然ではない。
(2) 死体焼損現場付近から被告人のタイヤ痕が発見されていないことについて
死体焼損現場付近から被告人車両のタイヤ痕は発見されていないが、タイヤ痕の印象可能性も現場の状況によりさまざまであって、常にタイヤ痕が印象されるとは限らない上、特に本件では、死体発見者、消防車、消防官等が死体焼損現場に駆け付けており、仮に犯人の車のタイヤ痕が現場に印象されたとしても、それがそのまま残っていた可能性は低いはいえ、死体焼損現場付近から被告人車両のタイヤ痕が発見されていないことも犯人性を否定するような事情ではない。
5 本件が複数の男性による性犯罪である可能性が高いとの主張について
この主張は、甚だ乏しい根拠に基づくものというしかなく、被告人の犯人性に疑いを生ぜしめるような合理的な推測ということはできない。
第5 結論
(1)被告人車両内から被害者のロッカーキーが発見されたこと、(2)被害者殺害後の犯人ないし被害者の携帯電話の動きと被告人の動きが一致していること、(3)被告人は本件犯行の前に灯油を購入し、その灯油は発見されず、他方で被告人は灯油を買い直していること、(4)被告人車両のタイヤにあった損傷、(5)被告人の自宅に近く、しかも被告人に土地勘のある場所で被害者遺品残焼物が発見されていること、(6)被告人に被害者殺害の動機があること、(7)被害者に無言電話を掛けたことや灯油を再購入したことにつき弁護人に虚偽を述べたり、しばらく打ち明けなかったことを含め動機や灯油の再購入あるいは再購入した灯油のうち約500ミリリットルが失われたことについての被告人の弁解には不自然不合理な点があること、(8)被告人は、判明している限り、被害者と最後に接触した者であり、被害者は被告人と二人で職場を退社して2時間足らずで殺害されている上、被告人は、被害者の死体が焼損された時刻と場所に近接した時刻、場所にいたこと、(9)犯人はキリンビール事業所従業員であるといえるが、キリンビール事業所従業員の中には、被告人以外に殺害の動機があり、かつ、犯行とかかわりを持つ可能性のある者が全くいないことを総合すると、被告人が被害者を殺害し、その死体を焼損した犯人であると強く推認できる。
そして、(1)被告人にアリバイは成立せず、(2)殺害が不可能であるとか被告人が購入した灯油10リットルでは被害者が炭化するほどに燃焼することが不可能であるとはいえず、(3)被告人車両内に犯行の痕跡がないことなどは、常に痕跡が残るものではないから、その事実は被告人の犯人性を否定するような事情でなく、被告人が被害者の殺害や犯人が取った行動に及ぶことが不可能であるとか不合理であるとの事情もないこと、(4)本件が複数の男性による性犯罪であるという主張は、被告人の犯人性に疑いを生ぜしめるような合理的な推測ではなく、結局被告人の犯人性に疑問を生じさせるような事情はないのである。上記のような間接事実を総合すれば、被告人が被害者を殺害し、その死体を焼損した犯人であると優に認めることができる。
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9月29日の判決公判後、大越被告は上告した。現在、弁護人は裁判所が指定する期日までに提出しなければならない「上告趣意書」の作成準備を進めている。







関連サイト

シリーズ一括読み
http://www.bnn-s.com/bnns/series/seriesList.jsp?series_cd=13






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