ビール、ウイスキー、バーボン、焼酎……◎
日本酒、泡盛、テキーラ……○
ワイン……△
三蛇酒……?
これは俺の酒の好みだ。
◎印はビールを除き、どれもストレートかロックでやる。ワインが△印なのは、味とアルコール度数の低さが要因。さらに飲んだ翌日、喉が渇くことも理由だ。
さて、三蛇酒(さんじゃしゅ)である。アルコール度数は、安いウイスキーと同じ38度。これはベトナムに隣接する中国・広西壮族自治区の産で、コブラ、マムシ、ハブとさまざまな薬草が入ったスタミナ酒だ。
もちろん、俺は世にこんな酒があるとは知らなかった。蛇やトカゲの入った酒は承知していたが、3匹も蛇がボトルに詰められた酒があるとはな。
札幌市厚別区には、俺が好きな七輪でホルモンを焼いて喰わせる店がある。ここのオヤジは自分が釣った岩魚などメニューに載っていない酒肴を行くたびにサービスしてくれる。
60台半ばのオヤジは、外見よりも老けて見えるせいなのか、自分を「ジジ」と呼ぶ。ジジは高熱で赤くなった炭をじかに手で触り、火加減を調節してくれる漢でもある。
そのジジが「東さん、これ。7年前、ジジが中国に行った時に買った酒なんだ。飲んで」と三蛇酒をくれた。
箱に入った酒を開けて驚いた。瓶には模様の違う蛇が3匹も入っているではないか。
これはジジの拷問、たくさんの蛇をまつらわせる蛇責めかと思ったもんだ。
ところが「ジジも飲んだことないんだ」と、蛇遣いは湯飲み茶碗を持って俺の横に鎮座しているでないか。
早速、俺は瓶の蓋を開け、ジジに酒をつごうと喜んだ。ジジがウワバミのように三蛇酒をガブガブ飲んで酔っ払えば、俺が飲んだかどうかは分からなくなる。
いざ蓋を開けてみると、何とも言い表せない匂い。いや異臭といってもいいだろう。とにかく嗅いだことのないヘビィな香りである。
ジジは一気に湯飲み茶碗を呷った。
俺はすぐにジジに酒をつごうと思ったが、ジジは「いやいや一杯でいいんだ。あんまり飲むと走ってしまう」とほかの席に行ってしまった。
俺はこの店に3人で来た。1人はさっさと三蛇酒を拒絶。仕方がなく、酒は俺ともう1人で飲むことにした。
しかし、そのもう1人のグラスに並々と注いだロックはあまり減らない。
当然、蛇年の俺が飲む羽目になった。臭いと同様、味も筆舌に尽くし難いスペシャルなものだった。それでも体はポカポカと火照ってくる。
ホルモンはウマイが、すでにビールはたくさん飲んだ。これ以上、ビールを飲めば、金がかかるし腹も脹れる。
「三蛇酒おかわり!」
おかわりを繰り返し、ボトルの蛇は遂に酒面から顔を出した。
それでも続けて飲むとなぜか、うまいような気がしてくる。
「いや、うまい」。結局、俺はほぼ1人で三蛇酒の98%を飲んだ。
残りの2%を残したことにはわけがある。最後まで飲めば、ジジが話していた7年前に死んだ蛇の鱗がグラスに入りそうだったからだ。
この日、3匹の蛇は夜な夜な俺の体内を蠢いた。