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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第25回


03月14日(火) 00時00分
文:惠谷 治 



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平壌の金日成像と朝鮮革命博物館(著者撮影)。平壌の万寿台にある巨大な金日成像は1972年4月に建てられたが、その背後の朝鮮革命博物館も同時に開館した。解放直後は国立中央解放闘争博物館という名称だったが、金日成部隊の女性炊事隊員だった黄順姫が館長の朝鮮革命博物館に改称されてからは、偽造、捏造、剽窃された「革命伝統」が館内に散りばめられて展示されるようになった
 第1部 金正日の出生の秘密を暴く

 第2章 ソ連逃避行の途上で父母は電撃結婚

 捏造された金日成の魏拯民病気見舞い

 1940年8月11日に終わった会議後の行動について、金日成は次のように書いている。

 「小哈爾巴嶺会議を終えたのち、わたしは寒葱溝密営で病気治療していた魏拯民を訪ねました。病苦にさいなまれて青ざめた彼の顔を見ると心がうずきました。介護にあたっていた隊員たちは、彼の銃創の跡はほぼ治りつつあるが、持病がこじれて病状が好転しないと心配していました。〈略〉その日、負傷兵と病弱者をソ連に後送する問題や、小部隊活動に必要な冬期の食糧を確保する問題についても協議しました」(『世紀とともに』第8巻・平壌版94-96頁)

 回顧録のなかでは、これまで知られていなかった「魏拯民訪問」というエピソードが、初めて紹介された。1940年8月の時点で直属上司である魏拯民と会ったかどうかは、その後の金日成の行動を考える上で非常に重要になるが、すでに述べているように、魏拯民は回顧録にある寒葱溝密営(間島省安図縣)ではなく、100キロほど西の頭道溜河密営(吉林省樺甸縣)で病身のため動けない状態だった。

 恐らく、金日成は伝記作家たちに体験談を幾度も話しているなかで、ソ連に脱出する前に魏拯民と会ったという架空話をしたに違いない。以下の記述は、同じ第8巻のその後の頁に登場する。

 「小哈爾巴嶺会議が終わったあと、わたしは一個分隊ほどの警護隊員を率いて寒葱溝へ行ったのですが、帰路、黄花甸子で敵に遭遇しました。〈略〉戦闘はその湿地で展開されたのです。われわれの一行には黄順姫も加わっていました」(『世紀とともに』第8巻・平壌版184頁)

 この記述は、金日成が伝記作家たちに対して、当時の状況に詳しい黄順姫に取材するように指示したことを反映しているものと推定される。孤児だった女性隊員の黄順姫(当時20歳)は、北朝鮮建国後、1965年から平壌の朝鮮革命博物館の館長を長年務め、青少年時代の金正日の教育係でもあった。

 「わたしは司令部で、小哈爾巴嶺会議とかんれんして、第4師に伝える指示を伝達する任務を与えられた。〈略〉わたしたちは〔会議の〕翌日の午後、宿営地をたった。〈略〉その夜、われわれは寒葱溝部落に近い山中で宿営した」(黄順姫「私たちの父、金日成同志」『朝鮮人民の自由と解放』346-349頁)

 黄順姫は、小哈爾巴嶺会議を終えた金日成たちは、翌日、安図縣寒葱溝に向かったと書いており、前出の李乙雪の記述と一致している。しかし、黄順姫は特命を帯びて、その後、金日成たちとは別行動をとっているため、金日成が魏拯民と会った経緯を伝記作家たちに聞かれても、黄順姫は知らなかったはずである。地理的位置関係に無知な伝記作家は仕方なく、金日成は「頭道溜河」ではなく「寒葱溝」で魏拯民と会った、と捏造したと考えられる。金日成回顧録には、こうした捏造個所が数多くある。

 ちなみに、黄順姫証言の第4師というのは、第3方面軍に改編された旧第4師のことである。当時はすでに存在していなかったが、隊員同士の間では、旧編成名のまま記憶されていることが多かった。黄順姫のいう第4師とは、旧第4師第13連隊長の崔賢のことであり、第4師への伝令となった黄順姫は、金日成の部隊と離れて朴成哲が率いる小部隊とともに、20日あまりの悪戦苦闘の行軍の末に崔賢と合流し、任務を達成することができたのだった。(つづく)







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