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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第31回


04月01日(土) 08時00分
文:惠谷 治 



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金日成と金貞淑のツーショットの修正写真。ソ連に脱出した直後の金日成と金貞淑のツーショットは、3点あることが知られている。歴史を偽造する北朝鮮においては、どんな写真も修正されていることは常識で、オリジナル写真を探すのが大変である。上の写真はオリジナルと思われるが、金日成を面長に修正した下の写真は金日成回顧録『世紀とともに』第8巻に掲載されている。北朝鮮では上のオリジナルのほうが自然で、人間的とう感性はないようである
 第1部 金正日の出生の秘密を暴く

 第3章 1941年に生まれた金日成の子供

 新婚夫婦はいつ入ソしたのか(その1)

 金日成たち16人の小グループが「極東入りの準備を終えて」安図縣の車厰子根拠地を出発したのは、「1940年10月の末ごろ」だった、と金日成自身が述べている。

 その16人のうちの1人である徐順玉は「歩いてソ連へ向かったのは、1940年8月で、ソ連までは1カ月ほどかかった」と私に証言した。徐順玉証言によれば、ソ連に入ったのは9月という計算になり、金日成の記述とは大きく食い違っている。

 しかし、徐順玉による証言のほとんどは金日成の回想と完全に一致しており、出発地点 と出発時期が異なっているだけなのだ。金日成と徐順玉の証言は、いずれが正しいのだろうか。

 満洲時代の金日成の行動について研究している東京大学の和田春樹教授は『北朝鮮-遊撃国家の現在』43頁で、次のように書いている。

 「金日成の部隊は1940年9月に小グループに分かれて越境入ソした」

 この記述は、徐順玉証言と同じように思われる。和田春樹教授はそれ以前の著作のなかでも、次のように結論している。

 「明らかに、金日成の部隊は他に先駆けて入ソしたようだ。金日成は呉白竜の第1中隊とともに入ソしたのだろう。<略>野副少将の討伐作戦の開始以前か、開始直後に、つまり1940年8-10月に金日成の脱出が行われたことを物語っている」(『金日成と満州抗日戦争』290、292頁)

 和田教授の「8月入ソ」説は、1969年に文化大革命で迫害されて死亡した第2方面軍の小隊長だった金明柱からの聞き取りで、「8月の雨の日、金日成とともに入ソした」という証言を得たためと考えられるが、金明柱は金日成とともには入ソしておらず(金明柱は1940年9月に入ソ)、私がインタビューした徐順玉は、雨を記憶していなかった。実は、金明柱と徐順玉の2人は、その後に結婚して中国に住んでおり、金明柱は徐順玉から金日成入ソの話を聞いたと思われ、2人の証言が同じであるのは当然なのである。

 また、和田教授は関東軍憲兵司令部が発行した『満洲共産抗日運動概況』という秘密文書の中国語版『東北抗日運動概況』327頁を意訳して、「1940年8月金日成は部下18名を引き連れ、安図縣を出発して、入ソした」という朝鮮警察が逮捕した男の供述を紹介している。

 しかし、1942年の部分である327頁を正確に訳すと、「去年8月、金日成は部下18名を率いて、残っていた無線機とともに安図縣から入ソ」となり、「去年」ということは、和田教授が訳した「1940年」ではなく「1941年」という意味で、この供述は信用できないことになる。ただし、「去年(昨年)」は「前年(一昨年)」という誤植の可能性は十分に考えられる。

 在日朝鮮人作家の金賛汀氏は、ウズベキスタン共和国のタシケントで元朝鮮人民軍副総参謀長だった兪成哲退役中将とインタビューして、次のような話を聞いている。

 「金日成は8月頃入ソしたが、スパイの容疑を受けソ連の国境警備隊に監禁されていた。〔第2路軍総司令の〕周保中が彼の身分を保障して釈放されて、オケアンスクの南野営に行くことができたと隊員から聞いたことがある」(『パルチザン挽歌』199頁)

 ソ連生まれで朝鮮人二世の兪成哲による証言は伝聞情報であり、「8月入ソ」説を裏付けるものではない。

 実は、私は延辺自治州における取材過程で、ある朝鮮族歴史家から匿名を条件に、金日成たちが「1940年10月23日に王八☆子からソ満国境を越えた」という秘密文書がある話を聞いた。中国共産党の極秘文書を保管する北京の中央党襠案館には、金貞淑本人が記入しソ連極東軍に提出した「登録票」があるというのだ。その登録票は戦後、ソ連から中国に返還された文書束のなかにあったもので、一部の研究者を除いては秘密扱いになっており、今なお公開されていない。

 果たして、この秘密文書による入ソの日付や径路は信用できるものなのだろうか。(つづく)

☆は月へんに勃の左の字







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