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恵庭OL殺人事件 最高裁提出「上告理由書」 vol.11


 
弁護団は灯油10リットルで本件死体のように焼損することは不可能と反論。
平成12年3月17日、苫小牧市に住むOL・橋向香さん(当時24)が、恵庭市北島の市道脇で焼死体となって発見された恵庭OL殺人事件。
この事件で逮捕、起訴されたのは、被害者橋向さんの同僚で日本通運札幌東支店キリンビール千歳工場内構内課に勤務していた大越美奈子被告(36)だった。
15年3月、札幌地裁の遠藤和正裁判長は、殺人と死体損壊の罪に問われた被告に対し「被告人単独で被害者を殺害、死体を焼損したことは、合理的な疑いを挟む余地なく認定できる」と断罪、懲役16年(求刑・懲役18年)の判決を言い渡した。
捜査段階から一貫して無実を主張してきた被告は、1審判決を不服とし、札幌高裁に控訴。控訴審はおよそ1年半にわたり開かれた。
昨年9月29日、札幌高裁(長島孝太郎裁判長)は1審・札幌地裁判決を支持、控訴を棄却した。被告は即日、上告。弁護団は提出期限である今年3月6日、最高裁に上告趣意書(上告理由書)を提出した。
以下、上告理由書のvol.11。
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3.被告人が購入した灯油で被害者の死体が焼損された事実の証明がない
(1) 原審の判断
ア.原審は、「被害者の死体焼損に使用されたのは、3月16日午前零時1分ころ、被告人がセイコーマートふくみやで購入した灯油10リットルである」と認定したが、そのように認定した理由は、「灯油10リットルでは被害者が炭化するほど焼損することが不可能であるとは言えない」というものである(判決43頁)。
一方、原審は、「死体焼損に用いられたのが灯油であるか灯油型航空機燃料のいずれかであるかは不明である」とも認定している。もし、本件の燃料が灯油型航空機燃料であれば、被告に入手の可能性は全くないから、被告人の犯人性を否定する重要な消極的情況証拠となるのである。
イ.原審が是認した一審判決は、本件死体焼損に用いられた燃料が「灯油」であるとした根拠に、次の5点をあげている。
1.被害者の焼損時間帯に、被告人車両に被告人が同日購入した赤色ポリタンク10リットル入り灯油及びライター1個があったこと、
2.被告人車両の助手席マットから灯油成分が検出されていること、
3.被告人車両の左前輪の接地面に高熱による損傷があること、
4.被告人は、ポリタンクのキャップがゆるんでいて、被告人車両助手席床に灯油がこぼれたと弁解するが、通常は密封状態で販売されているポリタンク入り灯油が運転中の振動程度で遺漏するというのは不可解である。
5.被告人は、3月16日に購入した灯油は投棄し、改めて赤色ポリタンク入り灯油を購入したと弁解するが、その一連の経緯を公判段階まで秘匿するなど供述の変遷は顕著で、T(※)らの供述とも矛盾があり信用できない。
以上の理由から、一審判決は「本件死体損壊に使用された燃料(以下「本件燃料」という)は灯油である」と認定した。しかし、この推論には全く合理性がない。なぜなら、以下のとおり、1.2.3.の間接事実は、それだけでは、本来的に本件燃料が「灯油」であることの間接証拠にはなり得ないし、また、4.5.の記載内容も、明白に、上記要証事実を認定する間接証拠にはなり得ないからである。
(2) 原審の判断の不合理性
ア. 1.について
1.の間接事実だけで、本件死体焼損の燃料が灯油であったことの証明にならないことは、ことさら言及する必要もないほどに一見して明白である。
イ. 2.及び4.について
被告人車両の助手席マットから検出された灯油成分が、被告人がセイコーマートふくみやで事件の前日に購入した灯油の成分と一致している証拠はない。北海道では冬期の暖房用に灯油を購入することは極めて日常的なことであって、被告人もこれまで何度も灯油を購入しているが、その際、車両の助手席にポリタンクを置いたままにしていたこともあったから、車両の助手席から灯油が検出されても何ら不思議ではない。2.の事実だけでは、被告人がセイコーマートふくみやで購入した灯油が被害者の死体焼損に使用された事実を証明したことには全くならないのである。
そこで、一審判決は、4.の「被告人の弁解は信用できない」という理由を付加して、「被告人が、セイコーマートふくみやで購入した灯油を被害者の死体焼損に使用した後、そのポリタンクを被告人車両の助手席に戻した際に、助手席マットに灯油がこぼれて付着した」と推認して要証事実の存在を認定したのである。これが証拠に基づかない非合理的な事実認定であることは明白であるが、一審判決の論理は「被告人は嘘つきで信用できないから、灯油を用いて死体を焼いたに違いない」という論理であり、もはや「事実認定」とは言いがたいものである。なぜなら、この認定どおりであるなら、被告人が購入した10リットルの灯油の成分と助手席マットに付着した灯油の成分は一致していなければならないからである。
前述したように、本件燃料が灯油であったかどうかは、動かし難い客観的事実であって、科学的根拠により判断されるものである。ところが、一審も原審も、この客観的事実を「被告人の供述の信用性」を証拠にして判断するという誤りを犯しているのであり、この点については、既に指摘したとおりである。
原審は、この一審判決の論理をそのまま踏襲している。
ウ. 3.の間接事実は、本格的に、本件燃料が「灯油」であるか否かと全く関係ない事実である。さらに、4.5.は被告人の供述に対する裁判所の信用性判断であり、「被告人は嘘つきであるから灯油を使用している」という倒錯した論理を開陳しているにすぎない。一審及び原審は、このような誤った推論により「本件燃料は灯油である」と認定しているのである。
4.灯油10リットルでは本件死体のように焼損することは不可能である
(1) 原審の判断
原審は、「豚を使用した燃焼実験では、灯油10リットルで本件死体のように焼損することは不可能であることが認められる」としつつ、上記豚の実験結果(※)と本件犯行では
1.豚の皮膚と人の皮膚は異なる
2.焼損を開始した時点での体温に差異があった可能性がある
3.灯油の滞留に大きな差異がある
4.自然条件自体にも自ずと差異がある
ことから、「灯油10リットルで、本件死体のように焼損することが不可能であるとは言えない」とした。しかし、この原審の論理では、被告人の犯人性を認めることは不可能なはずである。なぜなら、「灯油10リットルで本件死体のように焼損する事実」については、合理的疑いを容れない程度の証明は全くされていないからである。
(2) 原審の判断の誤り
ア. 本件死体損壊の公訴事実は、「灯油を用いて死体を焼損した」というものであり、明確に、犯行の手段・方法を特定している。したがって、本件燃料が灯油であることは本件の主要事実であって、合理的な疑いを容れない程度に証明されなければならない。ところが、本件において、検察官は、「灯油10リットルで本件死体を焼損した事実」について全く立証していない。本件燃料が「10リットルの灯油」である事実は全く証明されていないにもかかわらず、原審は、「灯油10リットルで本件死体のように焼損することは不可能ではない」と推論することをもって、「焼損することは可能である」にすり替え、挙句には、「灯油10リットルを用いて本件死体を焼損した」という事実認定に至っているものであって、この推論が誤りであることは明白である。なぜなら、「不可能とは言えない」ことが、直ちに「可能である」ことには直結しないからである。さらに、その可能性を超えて「事実」になること自体、論理的におかしいからである。
「『被告人以外の者の犯行は考えにくい』ということをもって、直ちに『被告人が犯人である』ことの証明に置き換えてはならない」(平成7年1月27日東京高裁日葛事件判決)の判例に基づいても、原審の推論の誤りは明白である。以下、反論の必要性はないものの、原審の掲げた「根拠」の不合理性について言及する。
イ. 上記1.について
もとより、豚の皮膚と人の皮膚が全く同じというわけではないが、実際に、捜査機関が豚を人に見立てて死体の燃焼状態の再現実験をした例は、過去の裁判例においても、あったし、本件においても、千歳署は、豚を使用した再現実験を現に行っているのであって、原審の所論は、豚の実験の結果を否定する根拠にはなり得ない。
ウ. 上記2.について
また、焼損を開始した時点での体温の差異によって、これが燃焼の程度にどの程度影響するかについては全く不明である。にもかかわらず、原審は、何らの証拠もないのに、この点を理由にして、豚の燃焼実験結果と本件犯行の異なることと認定しているのである。
エ. 上記3.について
原審は「右手をくの字にして背後に回され、両足は広げられた状態であったから、地面と被害者の身体との間には隙間があったものと考えられ、また、被害者の広げられた太股の間にも隙間があったものと考えられるから、このような状態の被害者に10リットルの灯油をかけた場合、被害者の着衣に大量の灯油が染み込んでいくのはもとより、被害者の身体と着衣との間にできた隙間や被害者の身体と地面の間にできた隙間及び被害者の太股の間にできた隙間に灯油が滞留する」と認定している。
原審は、着衣に灯油をかけた場合、当然のごとく、大量の灯油が布に染み込むことを前提としているが、豚の燃焼実験でも明らかなとおり、実際には、短時間内に布を染み込むことはなく(少量ずつゆっくりと時間をかけて灯油をかけた場合は、判示のようなこともありうるだろう)、わずか5分の間に灯油10リットルをかけても、その多くは、地面に流れてしまう。
そしてまた、弁護人が行った前記の実験結果では、流れ出た灯油が死体と地面の隙間に滞留していた事実はなく、死体と地面に隙間などはできず、灯油は地面に広がっていた。
したがって、原審が認定したように、被害者の着衣がいわば芯のようになって灯油がよく燃える状況になるとの証拠は全くないのであって、「灯油10リットルで本件死体のように焼損することが不可能であるとは言えない」という原審の事実認定は、明らかに証拠に基づかない、単なる推測でしかないのである。むしろ、豚の燃焼実験により「灯油10リットルでは、本件死体のように焼損することは不可能である」ことが、明らかになったものであって、原審の認定は明らかに誤っている。
オ.上記4.について
さらに、自然条件についても、確かに、本件犯行時と豚の燃焼実験時とでは自然条件に差異はあるであろう。しかし、問題は、それがどれだけ結果に及ぼすかであり、原審は、単に差異があったと言うだけで、「灯油10リットルで本件死体のように燃焼することが不可能ではない」という結論を導いているものであって、これも論理的に誤っているものである。
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以下、次回に続く。
(※)豚の実験結果 平成16年8月19日に札幌高裁で開かれた「恵庭OL殺人事件」の控訴審第5回公判では、弁護人が行った豚を用いた燃焼実験の録画テープが大型スクリーンに再生された。実験の目的は、灯油をかけてブタを燃やしても、橋向さんの遺体と同様の炭化状態にはならないことを立証するためだった。
実験では着火後、豚の上半身から燃え上がった炎は、およそ1分で全身に燃え広がり、約2分後に最大の大きさに達した。その後、豚の炎は次第に小さくなった。腹部の炎は煙に変わったが、雪面に近い右半身の背中付近からはおよそ1時間30分、炎が途絶えなかった。豚の表面は黒く焼け焦げていたが、下側の下半身は炭化せずに肌色のままだった。
主任弁護人の伊東秀子氏はこの時、「10リットルの灯油で1時間30分余り焼いて、こういう(内臓は炭化していない)状態です」と主張した。
(※)Tは被告人の父が以前勤めていた会社の人間







関連サイト

シリーズ一括読み
http://www.bnn-s.com/bnns/series/seriesList.jsp?series_cd=13






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