|
恵庭OL殺人事件 最高裁提出「上告理由書」 vol.12


 
 |



| 橋向香さんが殺害された3月16日深夜、被告が給油した恵庭市のガソリンスタンド |
|
|
 |
「被告人にはアリバイが成立しない」とする裁判所の認定に反論。
平成12年3月17日、苫小牧市に住むOL・橋向香さん(当時24)が、恵庭市北島の市道脇で焼死体となって発見された恵庭OL殺人事件。
この事件で逮捕、起訴されたのは、被害者橋向さんの同僚で日本通運札幌東支店キリンビール千歳工場内構内課に勤務していた大越美奈子被告(36)だった。
15年3月、札幌地裁の遠藤和正裁判長は、殺人と死体損壊の罪に問われた被告に対し「被告人単独で被害者を殺害、死体を焼損したことは、合理的な疑いを挟む余地なく認定できる」と断罪、懲役16年(求刑・懲役18年)の判決を言い渡した。
捜査段階から一貫して無実を主張してきた被告は、1審判決を不服とし、札幌高裁に控訴。控訴審はおよそ1年半にわたり開かれた。
昨年9月29日、札幌高裁(長島孝太郎裁判長)は1審・札幌地裁判決を支持、控訴を棄却した。被告は即日、上告。弁護団は提出期限である今年3月6日、最高裁に上告趣意書(上告理由書)を提出した。
以下、上告理由書のvol.12。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
5.被告人のアリバイの存在
(1) 原審は、U(※)の公判供述によって、被害者死体の焼損開始時刻を「遅くとも3月16日午後11時5分ころである」と認定し、かつ、死体焼損現場からガソリンキング恵庭店までの被告人車両の所要時間については、「20分もあれば十分である」と認定して、被告人のアリバイを否定した。
U証言が、警察官に対する供述と公判廷における供述とで食い違っている点に関して、C(※)証言と全く同じであるのに、原審は、「Uの公判供述は信用できるがCの公判供述は信用できない」と認定した。その根拠については、何ら合理的説明を行っていない。また死体焼損現場からガソリンキング恵庭店までの被告人車両の所要時間について、これまた何らの証拠もないのに、独断で「20分」と認定しているのである。この原審の事実認定に合理性がないことは一見して明白であり、原審の「被告人にはアリバイが成立しない」とした認定は明らかに誤りである。
(2) 原審は、被害者死体の焼損開始時刻は遅くとも3月16日午後11時5分ころであると、認定した理由について、
1. Uは、原審公判において、壁時計が午後11時から午後11時5分より前の時間であることを確認してすぐに2階に上がり、2階廊下の窓ガラス越しに炎が上がっているのが見えた旨供述したが、この供述に疑いを挟む余地はない。
2. V(※)の供述だけで、死体焼損開始時刻を特定することはできないが、Vの「午後11時10分ころから15分ころ最初の炎を見た」旨の供述は、U供述と矛盾するものばかりではないばかりか、Uの「午後11時ころから午後11時15分までの間に炎を見た」旨の供述を補強するものである。
3. 一方、原審は、「Cの原審での供述は、同人の3月17日付警察官調書の内容と重要な点で大きく変遷している上、記憶が鮮明なはずの目撃した翌日よりも目撃から約2年4カ月を経過した時点での供述の方がより詳細になっており、Cの原審での供述は信用性に欠ける」とした。原審のこれらの推論の非合理性について、論ずることとする。
(3) 上記1.について
Uの公判供述について、原審は、「Uは合理的説明をしており、信用できる」と認定している。しかし、Uに確実な記憶がるのであれば、炎を見た時刻について幅を持たせるとか、慎重を期す必要など全くなかったはずである。Uは、公判廷で供述するまで、一度も、午後11時から午後11時5分ころの間に炎を見た、とは供述していない(U尋問調書31頁)。
しかも、原審は、Uの捜査段階の供述内容について、Uは、「炎を見たのは午後11時0分ころから午後11時15分ころの間で間違いないと思う」となっているから、「炎を見た時刻について、U自身、『午後11時ころ』であると認識していた」と認定している。
Uは、5月4日付検察官調書においても、「正確な時刻までははっきり覚えていない」と供述し、「午後11時0分ころから午後11時15分ころの間である」という供述しかしていないのに、原審は、何故か「Uは午後11時ころであると認識していた」と認定しているものであって、これは全くの恣意的認定であり、根拠がないことは明白である。
(4) 上記2.について
確かに、Vの供述は、原審の認定したとおり、Uが炎を見た後にさらに大きくなった炎の状態を見たものと推認されるもので、その意味ではUの供述と矛盾するものではない。しかし、問題は、原審が、このVの供述は、Uの「午後11時ころから午後11時5分までの間に炎を見た」という供述を補強すると認定している点である。このような認定は、被害者の死体に灯油10リットルをかけて着火した後に、炎がどのような状態になるかについて当初から明らかである場合に初めて可能になることであろう。
即ち、例えば、午後11時5分ころ、Uの公判供述どおり炎の高さが1メートルくらいであった場合、その約5分ないし10分後には、Vが供述したように「横幅がビニールハウス1棟分、高さがそれを2つに重ねたくらいになる」という事が科学的に立証されているならば、Vの供述から、「Uが炎を見たのは午後11時5分ころであった」という認定が可能になるであろう。ところが、本件では、この点についての立証は全くなされていない。ちなみに、豚を使用した燃焼実験では、着火しておよそ1分で炎が最大となり、3分後には炎は徐々に小さくなっていき、5分もすると炎はかなり小さくなり、消え始めている。
もし、Vが見た時点で炎が最大級であったとするなら、Uが炎を見た時刻は、その大きさの供述からみて、Vが炎を見た1、2分前くらいになるはずである。そうすると、Vが炎を見た時刻は午後11時10分から午後11時15分ころの間であったというのであるから、Uが炎を見たのは午後11時8分ころないし午後11時13分ころの間ということになり、本件の逮捕状における被疑事実の「午後11時15分頃」という記載とも符合する。V供述はUの捜査段階での供述とは合致するが、「午後11時5分ころ」というUの公判供述とは一致しない。この点についても、原審の推論には合理性がない。
(5) 上記3.について
前述したように、供述が変遷している点では、UもCも同じであるのに、原審は、「Cの公判供述は信用できない」と認定した。
Cの供述に関して、原審が問題にしているのは、1.赤い光らしきものを見た時期が、往路と復路で全く逆になっていることについて、合理的説明がないこと、2.目撃した車の形状やライトの点灯の有無及び車の動きについて変遷があり、公判廷供述の方が捜査官に対する供述より詳細になっている点である。
しかし、Cは、警察官に対して供述した時、事件直後の慌しい最中に7、8人の刑事が入れ替わり自宅に来て、落ち着いた取り調べではなかったこと、それに引きかえ、公判廷供述では、それ迄の自分の記憶を辿って整理した結果であること、そのため、公判廷供述の方が正しいと、供述が変化した理由を述べている。原審が「信用性がない」とするのであれば、当人の供述の変更理由に合理性があるか否かを論じるべきである。ところが、原審はこれについて全く触れていない。Cは、JRの運行に合わせて家を出ているのであり、午後11時5分ころ家を出たことは間違いない。そして、自宅前の南8号線に出ると、その直線上に死体焼損現場があり、Cのいた方向から、死体焼損現場をはっきり見渡せることは、一審で実施された検証でも明らかである。
前述したとおり、Uが「午後11時5分ころ炎を見た」という供述の信用性には疑問があるから、Cが家を出た時点で赤い光らしきものを見ていなかったとしても何の問題もない。あるいは、一審判決のように、犯人が死体を着火して炎上する前に、Cが南8号線と西8線の交差点を右折したため、炎に気付かなかった可能性もある。ちなみに豚の燃焼実験では、着火してから炎上するまで50秒から1分程度を要している。
車の形状やライトの点灯の有無は、本件において重要ではない。本件で重要なのは、Cが往路と復路の2度にわたり、南8線上に2台の自動車を目撃している点である。
Cは、警察官調書において、「帰宅するときは、2台の車がまだ停まっていたのかや何か異常があったということは分らなかった」と供述している。しかし、西8線から南8線に左折するに際し、通常の運転者であれば、習慣として右方向を見るものであり、右方向には何の遮蔽物もないのであるから、2台の自動車や炎を目撃することは可能であって「分らなかった」ということはない。したがって、一審判決の認定したように、Cの公判廷供述の方が、合理性があるということができる。
もし仮に、Cの供述が信用できないとするのであれば、Uの公判供述もまた信用できないと考えるべきである。
(6) 原審は、死体焼損現場からガソリンキング恵庭店までの所要時間について、「最長で25分17秒という裁判所の検証結果があるが、殺人及び死体焼損事件を起こした犯人が車両を運転して現場から逃走する場合の速度や走行方法として、実態を反映しているとは到底認め難く、実際にはもっと短時間で着くことが可能であった」として、「20分もあれば十分である」と認定した。「証拠に基づいた事実認定」を柱とした刑事裁判において、事実認定がここまでいい加減であろうか。もはや言語道断と言うほかない。
死体焼損現場からガソリンキング恵庭店までの行程の約半分は、片側一車線の農道であり、積雪期でしかも夜間であるから、法定速度以上の速度で走行することはかなり危険を伴なうものである。万が一、スリップ事故でも起こすなら、事故のために被告人が犯人であることが発覚する危険性もある。しかも、被告人は、同年2月末、スピード違反による免許停止を1日講習で免れたばかりであり、残り点数がない状態だったから、むしろ、慎重運転を心掛けていたのである。
また、農道を過ぎると住宅街や商業地に入るが、そこには、いくつもの信号があって、幾度も車を停止させる必要があり、20分程度で到着することなど不可能であることは、一審における検証で明らかになっている。
原審は、何の根拠もなく、一審裁判所の検証結果を否定したのである。
(7) 以上のとおり、原審の、被害者死体の焼損開始時刻及び死体焼損現場からガソリンキング恵庭店までの所要時間の推論にはいずれも合理性がない。したがって、被告人にはアリバイがあることになり、これは極めて重要な消極的状況証拠となるものである。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
以下、次回に続く。
(※)Uは遺体発見現場で炎を見たと法廷で証言した男性
(※)Cは1審・札幌地裁の第39回公判で、犯行推定時間に現場付近で2台の車を目撃したと証言した女性
(※)Vは遺体発見現場で炎を目撃したと証言した女性







関連サイト

シリーズ一括読み
http://www.bnn-s.com/bnns/series/seriesList.jsp?series_cd=13






このページのTOPへ




|
| ■ |
当サイトは、リンクフリーです。バナーが必要な方は下のバナーをお使いください |
|