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恵庭OL殺人事件 最高裁提出「上告理由書」 vol.13


08月14日(月) 02時10分
 



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橋向香さんの車が発見されたJR長都駅の駐車場
 殺害場所と認定された被告の車には、被害者の血痕や尿斑、指紋などの痕跡がなかった。

 平成12年3月17日、苫小牧市に住むOL・橋向香さん(当時24)が、恵庭市北島の市道脇で焼死体となって発見された恵庭OL殺人事件。

 この事件で逮捕、起訴されたのは、被害者橋向さんの同僚で日本通運札幌東支店キリンビール千歳工場内構内課に勤務していた大越美奈子被告(36)だった。

 15年3月、札幌地裁の遠藤和正裁判長は、殺人と死体損壊の罪に問われた被告に対し「被告人単独で被害者を殺害、死体を焼損したことは、合理的な疑いを挟む余地なく認定できる」と断罪、懲役16年(求刑・懲役18年)の判決を言い渡した。

 捜査段階から一貫して無実を主張してきた被告は、1審判決を不服とし、札幌高裁に控訴。控訴審はおよそ1年半にわたり開かれた。昨年9月29日、札幌高裁(長島孝太郎裁判長)は1審・札幌地裁判決を支持、控訴を棄却した。被告は即日、上告。弁護団は提出期限である今年3月6日、最高裁に上告趣意書(上告理由書)を提出した。

 以下、上告理由書のvol.13。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 6.被告人の殺害行為の不可能性

 原審は、本件死因は「頸部圧迫による窒息死」であるとして、「被告人と被害者とで体格差等があるにしても、被告人が被害者を殺害することが不可能であるとは言えない」とした。

 しかし、これまた、証拠に基づかない、極めて合理性のない乱暴な事実認定である。

 原審は、被告人車両の内部で、後部座席から、タオルやマフラーのようなものを被害者の後部で交差させて被害者の首を締めれば、被告人でも殺害することが可能である、と考えているようである。しかし、本件において、上記の方法で殺害が実行されたとする証拠は全くないし、いくらでも抵抗可能な被害者に対して、被告人が単独で上記行為(タオル等を首に巻きつけた上、後部で交差させること)をすることはタオル等をつかんだ手を持ち替えなければならず、不可能である。

 本件で明らかなことは、

 1.被害者の頸部には絞められた跡(索溝)や防御創がないこと、

 2.被告人も無傷であったこと、

 3.被告人は先天的に右手薬指と小指の発達が遅れている「短指症」であり、握力が極端に弱いこと、

 4.被告人車両からは、被害者の指紋や毛髪はおろか、血痕や尿斑が検出されていないこと

 である。また、

 5.被告人車両の運転席にも助手席にもヘッドレストがあること、である。

 そもそも、本件においては、どのようにして被害者の頸部が圧迫され窒息死に至ったのか、その具体的殺害経路が全く不明である。にもかかわらず、何故、原審のような認定になるのか、全く不可解なのである。

 例えば、被告人車両内に、殺害が実行された何らかの痕跡が残っており、かつ、タオルやマフラーといった道具が殺害に使用されたことが証拠上明らかであるならば、原審のような認定も可能かもしれない。しかし、本件においては、かかる証拠は皆無なのである。

 弁護人は、本件の証拠(※上野鑑定意見も含めて)では、殺害はむしろ被告人車両以外の場所で行われた可能性が高いこと、殺害に際して、犯人はタオルやマフラーといった道具ではなく、上肢の肘関節を使って首を絞めた可能性もあること、仮に、被告人が、車両の後部座席から、タオルやマフラーを使用して被害者を絞殺したとしても、ヘッドレストがあるために、殺害の実行は不可能であること、かつ、被告人は短指症で握力も極端に弱いから、殺害の実行は極めて困難であること等、多くの反対事実の可能性を指摘した。しかし、原審はこうした反対事実の可能性について、ひとつひとつ検討する作業を全く行っていない。

 上述したとおりのような被告人が本件殺害行為を実行することが困難ないしは不可能であったという事実は、被告人の犯行性を否定する消極的情況証拠であるから、裁判所は、その不存在について、「合理的疑いを容れない程度」の証明がなされていないならば、原審のような認定は行えないものである。

 7.被告人の殺害を示す物的証拠が何一つない

 (1) 原審は、被告人車両に被害者の血痕や尿斑、指紋等の痕跡がないことについて、「被告人車両に血痕や尿斑等の痕跡がないことから、直ちに被告人の犯行性を否定されるものではない」とした(原審29頁)。

 しかし、通常、血痕や尿斑等の痕跡がないことは、車内で殺害しなかったことを示す間接事実であるから、原審が上記のように推論した過程について合理的説明をしなければならないのである。ところが、原審は、「被告人車両内を検証し指紋等を採取したのは、本件犯行から約1ヶ月近く経過した4月14日のことであって、その間、被告人が車両内を清掃することは極めて容易なことであるし、そもそも被告人の車両内からは被告人自身の指紋さえ検出されておらず、被害者の指紋が検出されていないことも何ら不自然ではない」と認定しているのである(原審30頁)。

 語るに落ちるとはこのことであろう。なぜなら、被告人は、4月14日に職場まで車を運転して行き、到着するや否や、警察官に任意同行を求められ、車両を警察に持っていかれたのである。

 したがって、少なくとも、この当日、被告人は車のドアの開閉をし、ハンドルを握っていたはずであり、それまでの間に清掃していたとしても、被告人自身の当日の指紋は、当然、検出されるはずである。当日の被告人の指紋すらも検出されないということは、指紋の採取が本当に為されたのか、あるいはそれらの検証結果が本当に正しいのか、極めて疑問となるのである。原審の述べている理由は、かえって、本件捜査を巡る疑惑を想起させるものである。

 (2) また、原審は、死体発見現場付近から被告人車両のタイヤ痕が発見されていないことについて、「タイヤ痕の印象可能性も現場の状況によりさまざまであって、常にタイヤ痕が印象されるとは限らない上、本件では発見者等の車両が死体焼損現場に駆け付けており、被告人車両のタイヤ痕がそのまま残っていた可能性は低い」という。

 しかし、これも、おかしい。確かに、現場の状況によっては、タイヤ痕が印象されないこともあり得るであろう。しかし、本件の場合、現場は冬期の残雪のある道路であり、むしろ、タイヤ痕の印象が容易な状況にあり、実際に現場から8個ものタイヤ痕が採取されているのである。

 そして、遺体発見者の車両や警察・消防署等関係車両が、死体焼損現場に駆け付けてはいるものの、その車両のタイヤ痕は全て採取されているのである。しかも、現実に、採取されたタイヤ痕の中には、遺体の発見者や消防・警察関係車両以外のタイヤ痕が3個もあり、これは、前述したとおり、C(※)が目撃した2台の自動車のものである可能性が極めて高い。この現場から被告人車両のタイヤ痕が全く検出されていない事実は、被告人の犯人性を否定する重要な消極的情況証拠なのである。

 8.被告人車両がJR長都駅南側路上に放置されていたこと

 (1) 原審は、被害者車両がJR長都駅南側路上に放置されていた事実は、被告人が犯人ではないことを示す重要な消極的情況証拠であるとの弁護人らの主張に対して、次のとおり反論している。

 1.犯人が殺害の実行前に人目の多い場所にわざわざ被害者を誘っていくことは考えられないとするのは、弁護側の憶測でしかない。

 2.午後9時30分以降の長都駅駐車場周辺が、それ程人目があるとも思われないし、同所に駐車すること自体、ごく自然なことである。

 3.退社した被害者は、一旦自己の車内に入ったと認められ、被害者は、被告人と何らかの約束をしていたか、被告人に言われて自分の車両を運転して長都駅へ向かい、同駅南側駐車場近くに自車を駐車した後、一緒に長都駅まで来た被告人車両に乗車したというのは十分に想定できる。(このことは)夜間に自分の車両を放置して、男性の車に乗り込んだとか、車内から引きずり出されて、そのまま犯人の車に乗り込まされたなどということよりも、現実的可能性の高いことである。

 4.配車センターから長都駅までの所要時間は約2分、配車センターから死体焼損現場までの所要時間は約25分であり、死体焼損現場からガソリンキング恵庭店までの所要時間が約20分程度であるから、被告人と被害者が午後9時40分ころ退社したとの前提に立っても、被告人がガソリンキング恵庭店に入店した午後11時30分までの約1時間50分の間に、一連の犯行を実行することは十分可能であって、時間的に困難であるとは全く言えない。

 (2) 原審の上記推論は、証拠に全く基づかない空想であり、かつ、経験則から見て非常に不自然で合理性のないものである。上記認定の一番の問題は、被害者が自ら自車を駐車して、被告人の車両に乗車したとする点である(上記3.)

 そもそも、被告人車両が放置されていたのは、いつも被害者が使っていた駐車場内ではなく、駐車場に至る途中の路上である。

 もし、被害者が予め被告人と約束をしてあるいは被告人に言われてJR長都駅まで行き、そこに一定時間自車を駐車させておく意思があったなら、すぐそばにある駐車場内に駐車するはずである。被害者車両が、駐車場の傍の路上に放置されていたということは、むしろ、何か突発的な出来事があって、路上に放置せざるを得なかったか、あるいは、真犯人が犯行後に被害者車両をそこに放置したかのいずれかであり、後者の可能性がより高いことは多言を要しない。被害者車両が同所に放置されていることは、極めて不自然なのである。

 (3) もし、被告人が被害者を誘い出して殺害しようと考えたのであれば、自分の車に一旦乗せるにしても、多少でも人目につく場所は避けるのが犯人の通常の心理であり、わざわざ、駅前の路上を選択したことは極めて不合理である。

 また、原審は、被害者が被告人と何らかの約束をしていたとか、被告人に言われて長都駅に向かったと認定しているが、そのような事実があったことを示す証拠は全くない。さらに、被告人が長都駅に向かったという証拠も皆無なのである。

 (4) 原審は、「午後9時30分以降の長都駅駐車場周辺は、それ程人目があるとも思われない」としているが、一審で裁判所がW(※)の目撃情況を再現するため検証した際、上記時刻頃、駅に降り立つ者や出迎えの者らの出入りは多く、現に、Wのような「目撃証人」もいたのである。

 (5) 原審が、死体焼損現場からガソリンキング恵庭店までの所要時間を20分と認定したことの不合理性については前述した。配車センターから死体焼損現場までの所要時間が、約25分であるとする証拠も全くない。本件においては、殺害場所も不明であり、被告人が配車センターないし長都駅から最短距離で死体焼損現場まで行ったとする証拠もない。また前述したとおり、殺害行為が被告人車両内で実行された証拠も全くないのである。

 したがって、本件において、被告人が約1時間50分の間に一連の犯行を実行することは十分可能であったとか、時間的に困難であるとは全く言えないとする証拠は何一つ存在していない。

 以上に述べたとおり、被告人車両がJR長都駅南側路上に放置されていたことは、被告人にとって有利な消極的情況証拠となるのである。

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 以下、次回に続く。

 (※)上野鑑定意見書 弁護人は上野正彦元東京都監察医務院院長に遺体鑑定意見書の作成を依頼。上野氏は札幌高裁の控訴審第3回公判で証人として出廷、「ご遺体が発見された時に開脚していたことからして、暴行殺人事件を視野に鑑定しなければならない。判決では10リットルの灯油で焼却していると言っているが、検査データからして結論が飛躍している」などと証言した

 (※)Cは1審・札幌地裁の第39回公判で、犯行推定時間に現場付近で2台の車を目撃したと証言した女性

 (※)Wは1審・札幌地裁の第40回公判で、女性2人が乗ったパジェロを長都駅で見たと証言した男性。橋向さんはパジェロを所有。殺害後、パジェロは長都駅で発見された。1審判決ではW証人が目撃したのが被告人及び被害者であるとは認められないと認定している







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