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札幌シネマ通(ツウ)<スキャナー・ダークリー>


08月30日(水) 09時30分
 



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 キアヌ・リーブス、ウィノナ・ライダー出演のSF映画「スキャナー・ダークリー」
 ファンが満足する作品となるか?

 

 あいかわらず高並編集長の行方が掴めない。家に電話しても出ないし、誰に訊いてもここの所見かけないと言う。

 だいたい、普段から日常がナゾに包まれている人だからして、一体どこにいるのか見当もつかないのだ。多分、どこかの試写会の会場に張り込みでもしていれば現れるのだろうが、いつどこで何の試写会があるのかが分からない。試写会情報を得るためにはまず高並編集長を探し出さなければならないのだ。

 そこで、編集長の家に電話してみるが出ないし、誰に訊いてもここの所見かけないという…。

 そんなことをグルグルと繰り返す毎日、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

 残暑厳しい中、こんなことを繰り返していると、果たして自分の探している人物が、ほんとうに実在する人物かどうかの確信が持てなくなってくる。

 もし、高並編集長なる人物が存在しないとすれば、僕はこれまで、誰の話を聞いてここの記事を書いていたのだろう?

 なにより、編集長と話をしたり、彼の料理を食べたという、存在しない人との記憶がある自分自身の存在というのは、一体何なのだろう?

 などという、頭の中で、幾分フィリップ・K・ディック的な展開が繰り広げられることになる。

 フィリップ・K・ディック。知ってます?カルト的な人気を誇る、アメリカのSF作家です。近未来を舞台に、ドラッグや宇宙戦争やアンドロイドや時空の歪みなんかを背景にしながら、冒険活劇的な印象はまるでなく、自分のアイデンティティが極端な危機にさらされる主人公をお得意とした、文学的な作風が持ち味であるのと同時に、力技で描いた物語の細かい部分の整合性の欠落がしばしば話題になるという作家だ。それを指摘してファンが「いかにもディックらしい」なんて言ってそれすらも魅力として認めているんだから、大作家なのである。

 昔、落語家の志ん生が高座で居眠りしていて、ファンが「今日は志ん生の寝てるところが見れた」って喜んだというのに近いかもしれない。

 で、このディックはまた「最も映画化作品の多いSF作家」としても知られている。舞台背景や設定が、映画を作る人たちにとっては魅力的なのだろう。有名なところでは、ハリソン・フォード主演の「ブレード・ランナー」、アーノルド・シュワルッツネッガー主演の「トータル・リコール」、トム・クルーズ主演の「マイノリティ・リポート」などがそうだ。

 そして、いずれもファンの間からは、「原作とはまるで違う物」という感想が漏れるのもディック作品の特徴だ。

 もともと、ディック作品のほとんどの主人公が、疲れきっていて、うだつの上がらない中年である。ハリウッドの大スターになったような人達が主役になる時点で原作とはかけ離れた作品になるのは約束されたようなものである。それに、原作のなかではまるで重要でない、もしくは存在しないアクションシーンや格闘シーンこそがハリウッド映画の見せ場としなければならないのだ。それによって、原作を読んだ時と映画とがこれほど印象の違うものになるかと驚くほどの別物になるのだ。

 よくある「映画は原作を越えられるか?」といった論争がディック作品で持ち上がらないのは、既に比較すらできないほど違うものになっているからだろう。

 それでも、やはり「原作に近い映画を観てみたい」というのがファン心理で、毎回公開されるとつい期待したしまう。

 そして現在、ディックファンの間で期待と不安が渦巻いているのが、この秋日本で公開予定の「スキャナー・ダークリー」である。これなんか、原作に映像的な見せ場はまるでないし、SFと言っても、捜査官が使用する特殊なスーツと監視装置といった小道具がSF的なだけの物語。麻薬依存症の仲間を数多く持っていたディックの、私小説といってもいい物語だ。この話を、キアヌ・リーブス主演で、どう映画化しているのかさっぱり見当がつかない。

 監督・脚本はリチャード・リンクレイター。実写を撮影した映像に、デジタルペイントを施して、アニメ化するという斬新な技法で、編集だけでも18ヶ月かかったという映像も注目を集めている。

 さらに、ヒロイン役はウィノナ・ライダー。昔の話を出してきて申し訳ないが、ハリウッドの人気スターにも関わらず、ブティックで万引きしていたという実生活の不条理さが、これまでのどの出演者よりもディック作品にピッタリという気がする。

 「ブレード・ランナー」は別物とはいえ、それ独自の優れた映像作品であったし、「マイノリティ・リポート」は製作段階から、監督のスピルバーグ自ら「原作の舞台設定を使っただけで、別物です」といった発言をして、批判を逃れていたが、今回の「スキャナー・ダークリー」に、ディックファンはどのような反応をするだろう?

 と、いうわけで、今回は高並編集長の不在から、強引に作品情報に話題を持っていくという、ディック的展開でお送りしました。

 ■辻 正仁(つじ まさひと)

 1966年生まれ。

 FM新さっぽろ「海月屋本舗(毎週月曜18時)のパーソナリティ、ミュージックショップ「音楽処」の準スタッフ等々、様々な分野で活動中。自主制作レーベル「海月屋(くらげや)」主宰。

 










関連サイト

スキャナー・ダークリー
http://wip.warnerbros.com/ascannerdarkly/






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