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“ステラ”の損害について判断 被告に対し、「6400万円を支払え」との賠償命令!!


02月07日(水) 11時05分
 




 前田尚一弁護士

 >>プロフィール

 「法科大学院」、「裁判員制度」等々、わずか10年前には全く予想さえもしなかった制度が設けられ、司法の世界で大きく急激に変わってきた。

 これからどのようになっていくのか、実はよくわからない。10年前には全く予想もしなかった制度が生まれるのだから、これからを予測しても、多くははずれてしまうだろう。

 そこで、占いめいた予測は止めることにして、10年ほど前に、衝撃を受け、当事務所の小冊子や講演などで紹介したお話しを、現在の情報を補充しながら紹介したい。

 当時、日本もこのようになっていくのか、といった視点で語られた、アメリカの事件だ。

1 ステラ・リーベックさん(女性)が、ファーストフードで買ったコーヒーでお尻にやけど火傷を負ったため、アメリカのニューメキシコ州で裁判を起こした。裁判所は、1994年9月、ステラさん自身の過失2割としてその分を減額したうえで、何と64万ドル(当時で6400万円)の賠償額を認めたのだ。

 ステラさんは、どうして、口とかのど喉にではなく、お尻に火傷を負ったのだろうか。実は、ステラさんは、自動車を運転してドライブスルーへ赴き、テイクアウトでコーヒーを買い、自動車の運転席に座ったまま、ふともも太股にコーヒー容器を挟んでふた蓋を開けようとしたところ、容器が倒れたからだそうだ。なお、ステラさんは79歳だ。

2 さて、日米比較のために、私が担当した交通事故事件のうち、ステラさんの事故と近い平成7年に起きた事例をあげてみよう。いずれも法律関係の文献にも紹介されたものだ。

 ある会社グループ(総売上高約13億円)の現役ばりばりの創業者(61歳)が交通事故に遭遇し、不幸にも死亡してしまった。創業者には全く落ち度がなく、相手方が赤信号で交差点に進入してきたという一方的な責任がある事案だ。裁判所の決めた賠償認容額は8100万円強であった。

 保険会社の提示額は6000万円強であり、裁判を提起して2000万円増額されたことになった。損害賠償の対象ととなる、死亡しなければ得られたであろう収入(「逸失利益」)の理解について、裁判の常識が被害者の感覚とずれている点を当方が論難する裁判となり、かなり当方の主張をい容れてくれた裁判であった。

 同じ時期に、自転車で横断中、重度後遺症の障害を負った交通事故事件を担当した。

 裁判前に既に治療代等が相当の金額支払われていたことに加え、近くの横断歩道を渡らず無灯自転車に乗って幹線道路を横断した被害者の過失は多大であるとして、共済組合が最終的に提示した残額は54万円であった。

 そこで、私が担当して裁判を提起したところ、重大な過失ではないと判断されたほか、一定の病院入院の介護料も認められた。残額としても1900万円弱の賠償が認められた

 これらの事案は、日本での交通被害者の救済を語るうえで、死亡あるいは重大な後遺症がある事案では、保険会社と示談してしまうより、裁判を起こした場合の方が、賠償金額が多くなるのというのが通常であることの例としてあげるのに適切な事例であると思う。

 しかし、アメリカの実情、とりあえず、ステラお婆さんの事件と比較するだけでも、人身事故の損害賠償認容額に大きな開きがあることがわかる。アメリカではいささか無茶をしてお尻に火傷をしたら6400万円とれるが、日本では、全くの落ち度なく死亡した経営者についてでさえ、8100万円である。

 そして、重度後遺症の障害を負っても、時には、残りは54万円しかないよ、と誤魔化されかねないのだ・・・・・・。

3 日本とアメリカで、裁判所の人身事故の損害賠償認容額に大きな開きがあるのは何故だろうか。それは次のような理由による。

 日本では被害者の失ったものを金銭評価するといくらになるかという面から賠償額を決めることになる(「実質的賠償」)。これに対し、アメリカでは、この実質的賠償の額それ自体高めであることに加え、今後の事故防止のために加害者に社会的責任を金銭で償わせる制度があるためだ(「懲罰的賠償」)。

 そして、このようなことが起こるのは、アメリカでは、弁護士の数が極めて多いこと(過当競争?)と陪審制度をとっていることが原因だともいわれてきた。要するに、弁護士がとにかく訴訟を提起し、陪審員相手に言葉巧みに弁論し、ときにはその感情に訴え、賠償額をつり上げることが常識になっているのだ。

4 アメリカの弁護士数は、当時でも80万人とか90万人とかいわれており(なお、平成15年で100万6783人ということだ)、弁護士も分野専門化しており、実に商売熱心である。

 職業別電話帳イエロー・ページに顔写真入りの一面広告を出し、また、24時間、フリー・ダイヤルで受け付ける法律事務所もざらにある。事故は何時起きるか分からないから、マゴマゴしていると他の事務所に事件をとられてしまうからだ。

 ロサンゼルスでテレビを見ていたら、突然自動車が衝突する場面が出たので、何かと思ったら、法律事務所のコマーシャルであった。そして最後に、「当事務所にお任せ下さい。泣き寝入りしてはいけません。貴方は莫大な賠償を受ける権利があります。**年の実績を誇る****法律事務所でした・・・。」とコメントあり。・・・・・・愕然。

 日本語のホームページも開かれている。

 「当方は、経験豊かで行動派の弁護士です。飲酒運転で告訴された方の弁護に力を注いでいます。・・・・・・是非、“飲酒運転ケースの成功例”をご覧下さい。これまで手がけてきた飲酒運転ケースの殆どで成功を納めています。・・・日本語での問い合わせは、日本語アシスタント***子(日本人女性)まで。

5 ちなみに、当時の法曹人口を比べてみると、次のとおりだ。

 日本の人口はアメリカの2分の1程度だが、弁護士数は約1万6000人に過ぎない。人口比率でいうと、アメリカは350人に1人の割合だが、日本は8500人に1人の割合だ。
 
 なお、司法試験の合格者数は、当時、500名前後であったが、平成11年から1000人程度、平成16年から1500人程度となった。概ね、合格者が司法修習生となり、法曹となっていた訳である。

 そして、平成18年9月1日現在で、弁護士2万1983名、弁護士法人204法人、準会員4名、沖縄特別会員11名、外国特別会員(外国法事務弁護士)249名である。

 今年からロースクールの卒業生が受ける新司法試験が、旧司法試験と並行して始まったが、平成19年中には少なくとも2600人の修習修了者が誕生することとり、平成20年には2700人、平成21年、22年に2900人、23年は3100人、以後は毎年3000人ずつ、法曹が誕生するという予想もある。

 弁護士数は、現在2万人強であるが、平成22年には3万人を突破し、平成30年には5万人に達するという予測もある。

 もっとも、アメリカの弁護士は、今や100万人を超えていることは、先に述べたとおりだ。

6 アメリカの訴訟専門の弁護士(「トライアル・ロイヤー」)は、業務拡大のためどんどん訴訟を起こしてしまう(民事訴訟の当時の年間数を見ると、日本では約250万件程度であるが、アメリカでは約1800万件に及ぶ)。費用は全て弁護士が負担する代わりに、勝ち取った額の3割から5割を頂戴する(「完全成功報酬制」)。

 なかには事故が起きると病院に駆けつけ、あるいはいつも病院に待機し、慌てふためく被害者や家族から委任状をとりつける弁護士もいる(「アンビュランス・チェイサー」 救急車の追跡者という意味)。

 “ボパール事件”もよく紹介された。1984年、インドのボパールで、ガス流出事故が発生し、付近の住民2000人以上が死亡し、2万人以上が負傷するという大惨事が起きた。そのとき、アメリカから弁護士が大多数でわざわざボパールまで乗り込み、被害者から委任状を取りまくったのだ。そして、損害賠償額の高いアメリカで裁判を起こした。

7 陪審制度は、アメリカ民主主義の理念に基づく仕組みであるといわれるが、反面、陪審員個人のパーソナリティや生活意識、ときには偏見に影響される側面がある(ちなみに、陪審は、場合によっては、裁判のために何日も拘束されるが、日当は50ドル程度とのことである。仕事どうするのかナ〜??)。

 人種問題が影響したともいわれるシンプソンの刑事事件での無罪判決も、陪審員によるものであった。ところが、民事事件では、これも陪審員によるものであったが、シンプソンの責任を認めて、850万ドルの損害賠償を命じた。この差は一体どこから来るのだろうか。

 ステラお婆さんの事件も、最終的には裁判官が減額する判決をして64万ドルで収めたが、その前に陪審員らは、実に286万ドル(当時約2億9000万円)の評決を出していた。

8 当時から、アメリカでは、企業の訴訟対策費は売上げの3%程度といわれ、これを超えると企業倒産に至るともいわれる。日本の改正前の消費税の税率と同じである。

 もっとも、訴訟対策費が消費税相当分にも及ぶのは、とんでもない賠償を請求されることがあるためだけではなく、アメリカの企業が、訴訟を経営的観点から戦略的に利用することは当然と考えていることも大きな原因と考えられる。

 このような需要に応じ、アメリカには、企業法務専門の法律事務所(「ロー・ファーム」)がある。弁護士費用は時間制であり(「タイムチャージ制」)、高額設定である。一つの法律事務所が弁護士1000人をよう擁することもまれではない(ちなみに、札幌弁護士会の弁護士数は、平成18年9月11日現在385人である)。

 そればかりか、訴訟コンサルタント会社が実に繁盛している(「ジュエリーコンサルタント」)。膨大な調査活動や、証人尋問で陪審員の感情をそこ損ねず、好感情・同情を得るため、当日着る服装までも含めた徹底したアドバイスとリハーサルを行う(日本人の証人は、よく「ニヤニヤするな。」とアドバイスを受けるそうだ)。しかも、実際の陪審員と人種、職業、性格等類似の者を集めて実際に評決までをさせる模擬裁判を行い、シュミレーションをするのだ。模擬裁判の費用は、1回あたり5万ドルが相場ともいわれる・・・・・・。

 以上は、最近の情報も加えてはあるが、10年程前にご紹介したものが骨子となっている。

 そういえば、当時は、オーストラリアで買ってきたタバコのパッケージの表示も、講演やセミナーのネタに使わせてもらっていた。日本では、<健康のために吸い過ぎに注意しましょう >なんて甘い表示がされているのに、オーストラリアでは、<SMOKING ADDICTIVE(喫煙は、病みつきになる)>とか、<SMOKING CAUSES CANCER(喫煙は、肺癌を引き起こす)>、<SMOKING KILLS(喫煙は命を奪う)>等と衝撃的な表示がなされていた。1日3箱の私も、平成13年8月に禁煙開始し、今でも続いているので、知らなかったけれど、今では、日本のタバコのパッケージにも<喫煙は、あなたにとって肺気腫を悪化させる危険性を高めます>とか、<未成年者の喫煙は、健康に対する悪影響やたばこへの依存をより強めます。周りの人から勧められても決して吸ってはいけません>とか表示されているということを、最近知った。

 世の中は、目に見える部分で確実に変わっている。

 しかし、本稿でご紹介した話には、昔話とはいえない新鮮さがある。

 本当の根っこの見えない部分で変わっているのは、一体何なのだろう。私には、変革の正体がまだ見えてこない。







関連サイト

前田尚一法律事務所
http://www.smaedalaw.com/






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