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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第1回


01月01日(火) 06時00分
文:惠谷 治 



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金正日が父親の現地指導に随行して、初めて朝鮮人民軍第109軍部隊を訪れたのは、大学入学直前の1960年8月25日のことだった。第109軍部隊の別名は「近衛ソウル柳京洙第105戦車師団」だった(『朝鮮時報』1993年2月11日付)。その日が現在では「先軍政治」の原点といわれ、2005年8月24日、4.25文化会館において、45周年慶祝人民武力部報告会が開催され、金永春総参謀長が演説した。上掲は『鋼鉄の霊将』という金正日の写真集に掲載されている軍部隊訪問時の写真であるが、キャプションは「人民軍324軍部隊訪問」となっているだけで、撮影日時は不明である。ちなみに、金正日は1998年6月22日、砲兵記念日に同じ人民軍324軍部隊を祝賀訪問しているところから、324軍部隊は砲兵部隊と推定される
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第1回] 「首相さまのご子息」は異例のスピード出世

 現在の北朝鮮では「先軍政治」が叫ばれ、金正日の独裁を支える権力基盤は、朝鮮人民軍であるといわれている。

 金正日が初めて朝鮮人民軍部隊を訪れたのは、大学に入学する直前の1960年8月25日、父親の現地指導に随行してのことだった。しかし、金正日が朝鮮人民軍を完全掌握したのは1994年7月8日に父親が死去して以後のことである。

 現在の標語である「先軍政治」とは、党、政府、軍、警察など国家権力のなかで、軍を最優先するというものであり、この事実は裏を返せば、標語が誕生するまでは金正日は軍を掌握できておらず、党あるいは秘密警察を優先してきたことを物語っている。

 旧ソ連をはじめとする共産主義国家の特徴は、「党が国家を指導する」ということであり、党が全ての権力の上に立っており、軍は「党を擁護する武装力」に過ぎない。通常の共産主義国家の軍隊は「国軍」ではなく、「党の軍隊」である。

 1972年に改正、公布された朝鮮民主主義人民共和国の憲法11条は次のように規定している。

 「朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮労働党の領導のもとに全ての活動をおこなう」

 この11条の規定を知れば、「先軍政治」は憲法違反なのである。

 無法国家である北朝鮮における法律論議は無意味であり、そうした論理は無視するとして、金正日が現在のような独裁者として軍を含めて完全に権力を握るまでの経過、また、特に日本に深刻な影響を及ぼしている拉致工作を命じるようになった経緯などについて、詳細に検証することにしよう。

 1964年3月30日、金正日は金日成総合大学政治経済学科を卒業した。満23歳、公式的には満22歳のときだった(以下本文では、公式年齢ではなく実年齢で表記する)。

 大学を卒業した金正日は、4月21日、朝鮮労働党中央委員会秘書処参事室に配置された。しかし、北朝鮮の公式発表では、次のような不可解な説明によって、6月19日が金正日による党活動開始記念日となっている。

 「全党員と人民の絶対的な信頼と期待のもとに1964年4月から朝鮮労働党中央委員会に着任した〔金正日〕書記は、活動の実態を検分し6月19日から本格的に活動を開始した」(1995年刊『朝鮮の指導者、金正日』176頁)

 翌1965年には内閣第1副首相参事室に異動となり、金正日は大学卒業から2年間にわたって、党と政府の全般的業務を体験した。1966年の初め、金正日は叔父の金英柱が部長を務める党組織指導部の中央機関指導課の責任指導員となった。その年の10月、第2回朝鮮労働党代表者会議が開催され、党の委員長制が廃止されて、総書記制となり、書記局が設置され、政治委員会内に常任委員会が新設されて、現在のような機構が出来上がった。また、この時に対南事業担当書記のポストが設けられた(『金正日と対南工作』現代コリア1999年4月号40頁)。

 1967年に入ると、権力中枢部で「軍備増強派」と「経済建設派」という路線対立の衣をかぶった権力闘争が勃発した。金日成をはじめとする軍備増強派(満洲パルチザン派)に対して、経済建設の優先を主張する朴金☆(党内序列4位)、李孝淳(序列5位)、金道満(序列19位)などの「甲山派」が抵抗したが、1967年5月、秘密裡に開かれた党中央委員会第4期第15回総会において、金日成は甲山派を「反党修正主義者」と批判して粛清した。そして、金日成は自ら「首領」を名乗り、「党の唯一思想体系」の確立を決定した。

 北朝鮮においては、この秘密開催の党中央委総会で金正日が「指導的力量を発揮」したことになっている。その真偽は別として、甲山派の粛清によって、金日成独裁体制が確立された。その4カ月後(67年9月)、金正日は党宣伝煽動部の文化芸術指導課長となり、1969年9月には党組織指導部および党宣伝煽動部の兼任副部長に昇進と、28歳の「首相さまのご子息(スサンニム・アドウル)」は異例のスピード出世を果たしたのだった。(つづく)

☆は吉がふたつ







関連サイト

[第2回]金正日の権力基盤として新設された秘密警察
http://www.bnn-s.com/news/08/01/071229134648.html

[第3回]「唯一指導体系」で自分への絶対忠誠を要求した金正日
http://www.bnn-s.com/news/08/01/071229140619.html

[第4回]1975年までの対南工作を「零点」と酷評した金正日
http://www.bnn-s.com/news/08/01/080108102702.html

[第5回]謀略機関を完全掌握し権力基盤を構築した金正日
http://www.bnn-s.com/news/08/01/080109093715.html

[第6回]朝鮮解放から1年足らずで拉致を指令した金日成
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[第11回]非業の死を遂げた民族派キリスト教徒の★晩植
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[第12回]北朝鮮臨時人民委員会の委員長に就任した金日成
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[第13回]金日成を北朝鮮の指導者に決めたスターリン
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[第14回]ソ連占領軍が描いたシナリオで動いた金日成
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[第15回]1947年2月、金日成が北朝鮮人民委員会の委員長に就任
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[第16回]朝鮮人民軍の原型が整ったのは解放から2年後だった
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[第17回]2つあった対南工作員を養成する専門教育機関
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[第18回]正規軍は「北朝鮮人民軍」ではなく「朝鮮人民軍」と命名
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[第19回]民族保衛省と内務省に対南工作部署が確立される
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[第20回]北朝鮮の長い国名はロシア語案を誤訳したものである
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