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「札幌シネマ通(ツウ)」 <音楽に乗せて感動が胸に溢れる映画>


01月29日(火) 09時00分
文:辻 



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現在スガイシネプレックス札幌劇場で上映中
 〜「once ダブリンの街角で」公開中〜

 音楽が好き、特に自分も楽器を持って誰かと一緒に演奏した経験がある方にはたまらない作品。異性との間に心の繋がりを感じて、それが友情なのか恋愛感情なのか自分でも分からないような関係に切なくなった経験のある方にもたまらない物語。そして、演奏経験も、男女の微妙な気持ちの触れあいも体験してない方でも、それが果たしてどんな気分のものなのかをリアルに感じ取ることのできる。

 そんな映画が、現在、札幌市中央区の「スガイシネプレックス札幌劇場」で公開中の「once ダブリンの街角で」だ。

 1時間30分から2時間前後の上映時間の映画でも、小説でいうところの「長編大作」のような印象を持つ作品もあれば、密度の濃い短編小説の読後感に近い気持ちが湧く作品もある。この「once ダブリンの街角で」は、どちらかと言えば後者になるかな?

 ストーリーだけを追えば、いたって地味。入り組んだ設定もなければ、観客を驚かすような展開もない。淡々とした物語を、小説家の巧みな視点と文体よろしく、映像と音楽でなんとも言えず静かに感動させてくれる映画である。

 アイルランド、ダブリンの街角でストリートミュージシャンをしている一人の男。彼は別れた恋人に未練を持ちながら、くすぶった気持ちを抱えて生活している。

 男は街角で演奏している時、一人の女性と出会う。彼女はチェコからの移民。上手くいかなかった結婚生活、夫を残して、母親と娘を連れてダブリンにやって来た女性であった。

 二人は共に音楽好き。自ら曲を書き歌うことを生きがいにしている。過去に傷つき、縛られ、先へ進む決心のつかぬまま人生の中で停滞している時期に出合った二人の心は、音楽によって結びつき、そして…。と、これ以上書くとネタバレなんでやめておくが、いわば「何もない人生」を送る二人の出逢いが、お互いになにをもたらすかという瞬間を描いているといってもいい。そう書くと実に単純な映画。そして、単純なだけに観る者の心に与えるものは大きい。その感動は静かにジンワリと胸に溢れてくる。

 その大きな要因は、やはり音楽。一般的なミュージカル作品のようなダンサブルだったり、大仰な音楽ではなく、ここでは二人のシンガー・ソングライターが歌う数々の歌が、役者のセリフや演技よりも多くの事柄を伝えている。まさに「音楽が主役」なのである。

 それもそのはず。主演のグレン・ハザードは、アイルランドの人気ロックバンド「ザ・フレイムス」のボーカリスト。映画「ザ・コミットメンツ」のギタリスト役以来の二度目の映画出演となるが、今回は説得力ある歌声で自らの手による楽曲を歌い、それがこの映画の「心」を形作っている。

 相手役のマルケタ・イルグロヴァは、制作当時、まだ19歳。プラハ在住の新鋭シンガー・ソングライター。グレンと共演した経緯から今回の映画抜擢となったようだが、彼女の柔らかくて静かに情感を伝える歌声がまた素晴らしい。

 当初は「演奏や歌が可能な俳優」を探していたが、音楽が主役となるこの作品、自然に音楽の持つ力を発揮できるミュージシャンを主役と考え、この二人を起用した監督・脚本のジョン・カーニーもかつてはミュージシャンだった。グレンと同じ「ザ・フレイムス」の初期メンバーで、バンド在籍中に自ら撮影したプロモーション・ビデオが彼の映像作家としてのキャリアのスタート。それだけに、音楽の力というものをよく知っていて、映画のなかで効果を上げているだけではなく、音楽が人に何をもたらすものなのかまで描いている。

 この映画が全米で公開されたのは、2006年。最初は僅か2館だけの上映が、口コミで評判が広がり、140館で上映されるようになり、全米8位の興行成績を挙げた。

 日本でも、全国一斉公開ではなく、最初は一部の地域での単館上映から火がつき、いまや全国各地のシネコンなどでロングランとなっている。

 まるで、歌い継がれる歌が長い時間をかけてジワジワと拡がっていくように、この音楽映画もまたその感動の仕方にふさわしい広がり方を見せているようだ。

 この作品を「音楽映画」というのは語弊があるかもしれないので、もう少し補足しよう。「once ダブリンの街角で」は、音楽が趣味や娯楽の範疇を通り越して存在している、音楽と共に生きている者の人生、そのほんのひと時を描いた映画です。

 この映画のテーマに基づいた感動も素晴らしいものだけど、個人的にはもう少し細かいところで観ていて嬉しかった場面がある。

 一つは、二人が出合って初めて一緒に歌う場面。ドキュメントさながらの、手持ちのカメラでの臨場感ある撮影で、お互いがお互いを探りながら一つの歌を形にしていくシーンは、初めてセッションするミュージシャン同士の呼吸や気持ちが次第に一つになっていく時の、あの緊張感と喜びがない混ぜになった気分が伝わってきた。そんな、なかなか経験のない人に説明できない心の震えのようなものを見事に描いてくれていたので、泣けちゃいました。「そう!コレだよ」って見せて周りたいくらい。

 もう一つは、後半でのレコーディング・スタジオのシーン。詳しくは観て欲しいところなので書かないけど、スタジオのスタッフのアノ感じというのは物凄くリアルで、さすが元ミュージシャンの監督・脚本だなと感心した次第です。

 ちなみに、この映画のサウンド・トラックも好評発売中。主役である二人のシンガー・ソングライターのコラボレーション作品としても聴き応えのあるアルバムで、映画観ると欲しくなる。そして、聴いているともう一度映画を観たくなる。

 観てる時にドキドキワクワクの娯楽大作もいいけど、いつまでも心に余韻が残るこうした「力強い小品」をぜひオススメしたい。







■辻 正仁(つじ まさひと)

1966年生まれ。
フリーライター、FMドラマシティ「海月屋本舗(毎週月曜18時)のパーソナリティ、シンガー・ソングライター等々、様々な分野で活動中。
自主制作レーベル「海月屋(くらげや)」主宰。







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