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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第21回


03月01日(土) 00時00分
文:惠谷 治 



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1917年の10月革命後、ユダヤ系ポーランド人のフェリクス・ジェルジンスキイは「VChK(全露非常委員会)」と呼ばれる秘密警察を創設した。ソ連政府がモスクワに移転すると、VChKはルビャンカ広場2番地にあった全露保険会社の本社ビルを接収して、秘密警察本部とした。それが上の白黒写真の左側の三角屋根のある建物で、右側は第2次大戦後にドイツ人捕虜たちによって増築された部分である。ソ連の秘密警察は、GPU(国家政治部)、OGPU(合同国家政治部)、GUGB(国家保安総局)、 MGB(国家保安省)、そして最終的にKGB(国家保安委員会)と変化したが、本部は変わらなかった。右手には秘密警察の創設者であるジェルジンスキイの銅像が立っている(1980年に著者が撮影)。下の写真は、増築部分とアンバランスだった左側が1980年代に改装され、1991年8月のクーデター未遂事件後に、銅像が撤去された現在の秘密警察であるFSB(連邦保安庁)本部である(2006年に著者が撮影)
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第21回] 北朝鮮工作員が最初に日本に潜入したのは1949年

 日本において北朝鮮のスパイが最初に摘発されたのは、朝鮮戦争が勃発した直後の1950年9月9日のことだった。「第1次北朝鮮スパイ事件」と呼ばれた事案の主犯は、北朝鮮内務省政治保衛局に所属する少佐の許吉松(偽装名は岩村吉松、当時37歳)だった。許吉松少佐は他の2人の工作員とともに密貿易ルートを利用して、1949年8月、島根県隠岐島から日本に潜入した。

 この事実は、北朝鮮が建国されて1年足らずのうちに、内務省政治保衛局は許吉松少佐を対日工作員として日本に潜入させていたことを物語っている。

 許吉松は在日経験があり、日本人2人と在日朝鮮人16人で在日スパイ網を構築し、北朝鮮から派遣されていた女性工作員の南信子たちと協力し、駐留米軍や終戦直後の日本の軍事情報を入手し、「極東コミンフォルム」に報告していた。

 日米合同捜査によって許吉松は逮捕され、その後40人もが逮捕されるという大事件に発展した。許吉松は1951年7月11日、GHQ軍事裁判において、「占領軍の安全に有害なる行為」という罪状によって、懲役10年、罰金5000ドルの判決を受けた。しかし、国外追放となり、許吉松は北朝鮮に帰国した。

 第1次北朝鮮スパイ事件は、ソ連の指示によるものであることは明らかだったが、北朝鮮による対日スパイ工作は、1966年7月に摘発された「杉並事件」によって、もっと古くから始まっていたことが判明している。

 在日韓国人だった安●濬(日本名は安田誠、当時46歳)は、1948年12月、北朝鮮の在日工作員Aの手引きで島根県隠岐島から密出国し、北朝鮮で2カ月間のスパイ教育・訓練を受けたのち、1949年5月、ノルウェーの貨物船で名古屋港から不法入国した。1950年4月28日、工作員Aが調達した漁船「第3旭丸」で、安●濬はAとともに北海道函館港から北朝鮮に密出国し、5月22日、他の任務を帯びた2人の工作員とともに、山形県酒田港から再潜入した。安●濬はその後16年間、10数人の工作員を指揮して、米軍情報、日本の経済情報などを収集し、対南工作員の送り出しや韓国の情報収集などをおこなっていた。

 安●濬が28歳だったとき、2カ月間のスパイ教育・訓練をどの養成機関で受けたのかは不明であるが、当時、工作員教育をおこなっていたのは「松島政治学院(金剛学院)」か「江東政治学院」のいずれかだった。また、安●濬の所属部署は明らかでないが、徴用時期などから判断すると内務省所属のベテラン工作員だったと考えられる。

 内務省は国内の治安維持を最大の目的としており、国内の防諜(スパイ取り締まり)が主要な任務だったが、省内には「対外情報局」があり、対外諜報活動もおこなわれていた。内務省が対日工作も管轄していたのは、ソ連方式を採用した諜報システムになっていたためと考えられる。周知のようにアメリカでは防諜と諜報の業務を、それぞれFBIとCIAに分担させているが、北朝鮮内務省は当時のソ連のMGB(国家保安省、KGBの前身)と同じく、防諜と諜報の業務を兼ね備えた組織になっていた。

 当時は、戦前に日本に住み、日本で高等教育を受けた者を対日工作員として徴用し、暗号の解き方や通信方法を教育するだけで、日本に派遣することが可能な時代だった。

 杉並事件では、1966年6月2日に工作員Aが経営する建設会社の女子事務員が警視庁に逮捕され、彼女の衣服のなかから北朝鮮からの指令文が発見された。彼女は安●濬の連絡員として帰還船「万景峰号」を訪問していたことが明らかになり、7月12日に安●濬は外国人登録法違反容疑で逮捕された。しかし、安●濬は起訴猶予処分となり、翌年4月に国外追放となった。工作員Aは外国人登録法違反、公正証書原本不実記載・同行使の罪で、懲役10カ月・執行猶予3年の判決を受けている。

 これら2つのスパイ事件の概要を知れば、北朝鮮では建国直後からソ連の指示によって対日工作員を養成し、組織的に工作員を日本に潜入させていたことが分かる。1960年までに公表されたスパイ事件は約15件であるが、これは氷山の一角で、秘密裡に潜入・脱出を繰り返していた工作員は、相当な数だったと考えるのが自然だろう。(つづく)

●は珂の可が民







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