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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第32回


04月03日(木) 00時00分
文:惠谷 治 



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中朝国境を形成する鴨緑江には、幾つか橋がかかっているが、北朝鮮の平安北朔州郡と中国の遼寧省丹東市長甸鎮を結ぶ地点には、1942年に完成した「清城橋」がある。清城橋は朝鮮戦争当時に米軍の爆撃を受け、北朝鮮側の半分は橋脚を残して破壊されたままとなっており、現在は「清城断橋」と呼ばれている。1994年7月、中国の吉林大学東北アジア研究院朝鮮研究所の林昌培教授とともに、私は鴨緑江に沿って取材旅行をしたが、林昌培教授は「私が人民義勇軍の兵士として、この橋を渡ったのは、1950年10月22日でした。北朝鮮側に入ると住民たちは白湯を出して歓迎してくれました」と話してくれた。緒戦族出身の林昌培教授は金日成の中国語通訳だったこともあり、北朝鮮の内情に精通しており、私は多くの情報を得ることができた。写真は清城断橋に立つ林昌培教授(著者撮影)
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第32回] 一時は金日成に対して亡命を勧告したスターリン

 1950年10月8日、毛沢東はソ連から空軍支援と武器援助を取り付けるため、周恩来と林彪を秘密裏にモスクワに派遣した。9日早朝、スターリンと会談した周恩来は、朝鮮への援軍派遣は準備のため半年後になるという政治的駆け引きをしながら、中国への武器援助を要請した。しかし、スターリンは軍事援助に消極的で、驚くことに金日成政権崩壊もやむなしという態度だった。

 スターリンは金日成に対し、10月12日、次のような至急電を送った。

 「中国人は再び軍を送ることを断った。これと関連して、貴下は北朝鮮から撤退し、北方へ朝鮮軍を引かなければならない」(トルクノフ『朝鮮戦争の謎と真実』175頁)

 これはスターリンの金日成に対する事実上の亡命勧告だった。金日成がスターリンからの電文をどう受け止めたかは不明だが、実際問題として平壌から脱出せざるを得なかった。

 「国連軍の平壌爆撃は激しさを増してきた。金日成も耐えきれず、10月16日夜明け2時にソ連高級乗用車に乗り、雨が激しく降り注ぐ平壌をあとにした。満8歳になった息子の金正日と娘の金敬姫はすでにその10日前に満州の長春へ避難させていた。金日成は順川・价川を経て清川江を渡り、平安北道の煕川に到着したが、反共産党派の蜂起に遭遇して車の行く手が阻まれた。やむをえず車を乗り捨てた彼は煕川の狄踰嶺山中を徒歩でさまよい、10月26日、満州国境地帯の平安北道江界郡にようやく到着した。この逃避行中に金日成は負傷した」(『北朝鮮50年史』171頁)

 韓国の仁川大学総長で北朝鮮の現代史に詳しい金学俊氏は、金日成の平壌脱出について以上のように書いているが、その出典を明示していないため、この記述を検証することができない。金日成は10月21日に朴憲永とともに、中国人民義勇軍の彭徳懐総司令と会談しており、上記の内容は正確ではないと思われる。いずれにせよ、金正日・金慶喜(金敬姫)の兄妹は、慈江道江界市長江郡の将子山を経て、長春市ではなく吉林市に疎開していたのである(本連載第2部第8回参照)。

 金日成の平壌脱出については、次のような情報もある。

 「金日成は〔10月〕11日に平壌を脱出、慈江道の江界に寄ったが、満州の通化に事実上亡命した」(民族問題研究会『朝鮮戦争史』123頁)

 モスクワに滞在していた周恩来から報告を受けた毛沢東は、10月12日、臨時の党中央委員会を招集し、朝鮮問題について再び審議した。そして、この会議において毛沢東は、人民義勇軍を北朝鮮に派兵することを最終的に公式決定した。

 「今しがた毛沢東からの電報を受け取った。その中で中国共産党中央委員会は再び状況を検討し、中国軍の不十分な装備にもかかわらず、朝鮮の同志たちに軍事援助を行うことを決定したと伝えてきた。この問題について、毛沢東からの詳しい連絡を待っている。中国の同志たちによる新しい決定と関連して、昨日貴下に送った北朝鮮撤退、および朝鮮軍の北への脱出についての電報を実行に移すことは一時延期するよう、要請する。フ・シン」(『朝鮮戦争の謎と真実』177頁)

 スターリンは「フ・シン」という中国人のような変名で、金日成に対し亡命勧告を取り消す電報を急いで送付した。しかし、この電報が届けられたときには、金日成はすでに平壌を脱出していたものと思われる。

 10月19日、中国人民志願軍の12個師団が鴨緑江を密かに越え、北朝鮮に入った。人民志願軍が米韓軍と初めて交戦したのは10月25日のことだった。その後、さらに6個師団が派遣され、人民志願軍の総兵力は20万3600人に達した。この時点で朝鮮人民軍の兵力は4個師団、3万2800人だった。対する国連軍は12万3000人、韓国軍は8万8000人だった(下斗米伸夫『モスクワと金日成』106頁)。

 10月27日から11月7日までの中国人民志願軍の大攻勢により、鴨緑江南岸まで達していた米韓軍は、清川江まで後退させられることになった。11月8日、米韓軍が反撃に出ると、人民志願軍は自陣に深く誘い込んだ後、11月25日から総攻撃を開始して米韓軍を壊滅させた。(つづく)







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