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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第40回


04月27日(日) 00時00分
文:惠谷 治 



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現在の北朝鮮では、工作船は朝鮮労働党作戦部によって運用されているが、党作戦部の要員である「戦闘員」を養成する金正日政治軍事大学は、独自の「勝利」号という工作船を保有している。拉致被害者の市川修一さんは、日本を往復している「勝利」号の乗組員に、日本製のタバコを買ってきてくれるように頼んでいた姿が目撃されている。日本政府が北朝鮮船舶の全面入港を禁止する経済制裁を発動する以前は、しばしば「勝利」号は貨物船を装い日本各地に入港して、工作員を不法入国させる一方で、中古自転車などを北朝鮮に運んでいた。写真はいずれも、2004年3月9日、鳥取県境港市に入港した「勝利」号を、著者が撮影したものである
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第40回] 1950年代に日本に潜入していた工作員は内務省所属

 南労党に対する粛清によって、党連絡部による朝鮮戦争直後の対南工作は麻痺していたが、内務省の対日諜報活動は変化することなく続いていた。北朝鮮で特徴的なことは、党中央委員会に「連絡部」のような情報収集のみならず、韓国や日本に工作員を派遣する積極工作を担当する部署がある点である。

 “社会主義の祖国”だったロシアの旧ソ連共産党内には、そうした積極工作をおこなう部署はなく、ソ連の場合は形式的とはいえ政府機構であるGPUやKGBが積極工作に従事していた。その影響を受けて、当時の北朝鮮では政府組織である内務省が、諜報と防諜の双方を担当していたのである。

 1950年代の北朝鮮の工作員派遣状況をみてみると、対韓工作は党連絡部が主体となり、対日工作など日本からの情報収集は、内務省系が担当するという分担になっていたのではないかと思われる。

 内務省の対日工作員は、戦前に日本に住み、日本で高等教育を受けた者が徴用されることがほとんどだった。そのため日本語教育は不要で、工作員としての通信技術などの教育・訓練を受けていたが、その教育機関は軍の平壌学院系統のものか内務省独自のものかはまだ明らかになっていない。

 内務省は党連絡部とは異なり、朝鮮戦争中も戦後も変わることなく対日工作員を徴用し、教育・訓練して、継続的に日本に送り込んでいたことは、次のような事実から明らかである。

 1955年6月26日、警視庁は「第3次北朝鮮スパイ事件」を摘発した。主犯である韓載徳(偽装名は竹村基、当時40歳)は、1953年4月に内務省の対日工作員に徴用され、スパイとしての教育・訓練を受けた。韓載徳は内務省第3処第7部の崔斗岩大佐の指示により、上海に派遣された後、趙応国ら2人の工作員とともに、無線機4台を携行して、「栄重丸」という密航船で、1953年8月26日、長崎県富津港から日本に潜入した。そして、在日スパイ網の構築や韓国の軍事情報の収集などをおこなっていたが、他の工作員を密出国させようとしていて逮捕され、関係者22人も逮捕されたのだった。

 1957年12月28日に摘発された「新光丸事件」の全基水(偽装名は松田博、当時30歳)は、内務省社会安全部対外安全処第1局から派遣された工作員(陸軍大尉)で、1953年9月頃、香港経由で横浜港から密入国した。全基水は日本人になりすまし、すでに潜入していた指導工作員の部下(無線士)として、収集した情報を暗号化して北朝鮮に送信していた。帰還命令を受けた全基水は、無線機や暗号表を携行し、京都府伊根港から工作船「新光丸」で脱出しようとしたところを、海上保安庁に逮捕された。全基水が逮捕される2日前に「新光丸」から5人の工作員が日本に潜入したことが、その後に判明した。

 また、「三和事件」(1964 年7月16日)で警視庁に逮捕された李基方(偽装名は守谷豊吉、当時57歳)は、1953年9月に内務省政治保衛局の工作員に徴用され、6カ月間のスパイ教育・訓練を受けたのち、香港に送られた。李基方は香港から英国船に乗り、1954年2月16日に他人名義の上陸許可証で横浜港から不法入国した。李基方は所在不明の在日朝鮮人の外国人登録証を入手して、その男になりすまし、「三和自動車株式会社」の社長におさまり、10数人のスパイ網の責任者として、日米両政府による対韓援助計画や日本の再軍備状況、在日朝鮮人対策などの情報を収集し、北朝鮮に報告していた。李基方のスパイ活動は10年以上にもおよび、逮捕される8カ月前には、成りすました男の名義で、帰化申請までおこなっていた。

 当時の北朝鮮工作員の日本潜入は、隠岐島に上陸した「第1次北朝鮮スパイ事件」(第21回参照)の「日本海直接ルート」を除いて、第3国を経由し日本の港に入港する外国船舶を利用しているのが特徴で、当時英領だった香港からの「香港ルート」、広東や上海などを経由する「密輸ルート」などがあった。そうした潜入を繰り返し、日本の港湾や海岸警備の状況などを把握した後に、貨物船や漁船を独自の工作船として運用するという潜入方式を確立していったと考えられる。(つづく)







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