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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第56回


06月14日(土) 06時00分
文:惠谷 治 



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左上は1962年4月に失踪した当時の加瀬テル子さん(当時17歳)、右上は撮影年月日は不明だが、2004年1月までに北朝鮮で撮影され、TBSが入手した写真。中段は、2004年10月17日、TBSが報道番組「ニュースの森」で放映した東京歯科大学の橋本正次助教授による鑑定の一部で、「2枚の写真は同一人物と見てほぼ差し支えない」という鑑定結果となっている。下段はフジテレビが入手した写真で、左下が加瀬テル子さん、右下は1975年頃に拉致された日本人で、加瀬テル子さんの夫といわれている
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第56回] 北朝鮮から届いた写真の人物は加瀬テル子さんだった

 対南工作を強化するため「南朝鮮総局」が「対南事業総局」に再編・拡充された直後の1962年4月、千葉県海上町で家事手伝いをしていた加瀬テル子さん(当時17歳)が、「パーマに行って来る」と言って出かけたまま、忽然と姿を消した。

 加瀬テル子さんは、叔母から「新宿コマ劇場に芝居を観に行こう」と誘われており、観劇に行く前日の午後に美容院に出かけ、美容院では芝居を楽しみにしていると話していたという。自宅を出たときの所持金は、パーマ代だけだった。

 それから42年も経った2004年、匿名の人物が、「加瀬テル子によく似た女性を2002年の夏頃、平壌の薬局で買い物をしているところを見た。本人は “千葉の海から来た”と言っていた。夫と思われる人物と常に行動をともにしていた」という情報が、特定失踪者問題調査会にもたらされた。

 更に、2004年9月、日本のテレビ局TBSが韓国に住む脱北者から、北朝鮮から持ちだしたとされる写真を入手した。撮影された年月日や場所は不明だったが、写真はハングルの刻印がある顔写真で、証明書用写真のようだった。その匿名の脱北者によれば、写真の女性は平壌市の中心部に住んでおり、拉致された日本人男性と結婚していると聞いた、という。特定失踪者問題調査会の調査によって、写っている人物は加瀬テル子さんである可能性が極めて高いことが判明した。

 脱北者は、1976年2月に行方不明となった特定失踪者の藤田進さん(当時19歳)と同一人物とされる写真を、以前にもTBSに提供していたことがあったが、彼はもう1枚同じ女性の全身が写っている写真を含め3枚を、すでにフジテレビに渡していたのだった。

 2004年8月7日、フジテレビは「ワッツニッポン」という番組のなかで、写真を提供した脱北者のインタビューを放映していた。2001年に韓国に亡命したという脱北者は、2004年1月に中国に行って、かつて朝鮮労働党調査部にいた金サンイルという人物から、写真を託されたという。フジテレビが放映した時点では、加瀬テル子さんと特定できておらず、3枚の写真は顔にモザイクをかけられて紹介された。

 「金サンイルは対日工作機関に深く関わる人物で、実務的地位が相当高く、北朝鮮では対南・対日工作部署においてある程度の地位にあります。金正日の側近でもあり、調査部の一員として活躍した人物で、私とは中学時代からの同級生です。朝鮮労働党本部に5課というのがあり、そこは金正日の個人生活、護衛などを統括する場所です。その中に親衛隊というのがあって、そこの責任者だったのですが、金正日の相手をする女性(キップムジョ)に金サンイルが手を出してしまい、辞めさせられたのです」

 匿名の脱北者は以上のように説明し、3枚の写真のうちの2人は夫婦だとして、次のように証言した。

 「夫は労働党中央委員会の調査部の課長です。新しく拉致されてきた人に対する審査や審問などをおこなっていると聞きました。この夫婦がどこで知り合って、結婚したのかは知りません。しかし、この女性が日本人女性であることは確かです。夫の年齢は65歳くらいで、1975年頃に北朝鮮に入ってきたと聞いてます。日本の大学で理工系を勉強したエリートだと言ってました。彼は能力もあり、北朝鮮に対する思想転換も早い方だったので、課長という役職を与えて日本人拉致被害者を審査させたそうです。2人は平壌市内の普通江区域西将洞に、一軒家を与えられたそうです。西将洞というのはある程度の地位の人が住んでおり、それくらいの仕事〔課長〕をしている人は多分、日本より生活レベルが高いと思います」

 2004年10月17日、TBSは報道番組「ニュースの森」で、女性の顔写真をモザイクなしで公開し、同じ脱北者とのインタビューを放映した。番組では、日朝首脳会談にも同行した法人類学の第一人者で、東京歯科大学の橋本正次助教授の「〔新旧〕2枚の写真は同一人物と見てほぼ差し支えない」という鑑定も紹介された。新旧2枚の写真の右目には、小さな“ほくろ”があり、加瀬テル子さんであるという強力な根拠となっている。(つづく)







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