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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第60回


06月26日(木) 00時00分
文:惠谷 治 



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上は、2006年8月30日に撮影された北朝鮮北部の清津市を「グーグルアース」が公開している衛星写真である。その一部を拡大したのが下の写真で、党作戦部清津連絡所を俯瞰したものである。党作戦部清津連絡所の詳細については、サピオ誌(2004年6月23日号)に拙稿「脱北者の告白『北朝鮮「拉致工作船」の秘密指令』」において既に発表している。安明進氏は2冊目の手記のなかで、「1990年頃の清津連絡所の規模は、工作員〔正確には戦闘員〕が約100名いて、それぞれが4名からなる『組』に所属していた。つまり同連絡所にはそうした組が25組、さらにその『組』を8〜10組ずつ束ねた組織単位として『方向』というものが3つあった」(『新証言・拉致』139頁)と記している
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第60回] 寺越事件の犯人は清津連絡所のベテラン戦闘員だった呉求鎬

 日本社会党の嶋崎譲代議士が書いた報告書『再会』の無責任な記述は、更に続く。

 「船は衝突で先端部分が砕かれており、そこから浸水し、船は傾きはじめた。武志さんも『もうダメダメ』と思い、海へ飛び込んでいった。そのまま漂流しはじめた。2〜3時間、3人はタルと板の切れ端に掴まっていた。3人が気が付いたのは、病院のベッドの上だった。最初に意識を回復したのは、武志君だった。遭難してから既に2、3日経っていた。そして、外雄さん、更に1、2日経って昭二さんも意識が戻った。3人とも、生きていたのだ。ここは、富来町福浦港から、800キロも離れた、北朝鮮北部の海岸にある清津という所の病院であることがわかった。ここの清津の水産事業所(漁業協同組合)の漁船員に、漂流中救助されたのだった」

 能登半島から清津まで、通常の船足で3日ほどかかる。仮に、漂流中の3人を北朝鮮の漁船が発見し救助したとしても、清津の病院のベッドで気付くまでの数日、3人全員が気を失っていて記憶がないなどとは、あり得ない話である。

 平壌で遭難の経緯を聞いていた寺越友枝さんは、腑に落ちないことばかりだったという。友枝さんは、手記で次のように書いている。

 「“遭難”の状況も、私が知っていることとは随分違います。発見された清丸はエンジンの故障もなく、浸水もしていませんでした。また、清丸が発見された日本海沖7キロの地点に、外国船がいるのも不自然です。当時は能登に外国船が往来することはありません。<略>『外雄さんが言ってること、ほんとうなのか』と問いかけたのです。武志は『眠っていたので、何も覚えていません』とだけ言って、顔をそむけ窓の外を見ていました。冷たい海に漂流していたのなら、眠れるはずはないじゃないの、と言いたかったのですが、武志の憂鬱そうな顔を見ていたら、それ以上は何も言えませんでした」(「北朝鮮よ、息子はなぜ戻れない」『文藝春秋』1999年6月号)

 北朝鮮の工作員を養成する金正日政治軍事大学を卒業した元戦闘員の安明進氏は、1998年に発行した最初の手記のなかで、党作戦部の清津連絡所で戦闘員をしていたという大学の教官から聞いた話を、次のように紹介している。

 「1960年代半ばの夏のころ、『能登湾』か『能登半島』に侵入した清津連絡所の工作船が、日本の領海を漁船のように明るいライトを点けて陸地に向かって進んでいたとき、ちいさな漁船が接近してくるのに気がついた。工作船であることが発覚するのを恐れた工作員たちは、その漁船を襲い、乗っていた3〜4人を捕まえた。ところが、一番の年長者の1人が激しく抵抗したので、その場で射殺し、遺体に鉛を付けて海に沈めた。小さい漁船は工作船に押し潰されてバラバラとなった。そのとき、少年も含まれており、あまりにも大声で泣き叫んだので、工作員が口を塞いで機関室に放り込んで、北朝鮮に連れてきた。工作員は清津に戻って、拉致を報告すると、平壌の3号庁舎の関係者が2人を連行していった」 (『北朝鮮拉致工作員』174頁)

 この内容は「清丸」遭難事件と一致することから、「北朝鮮に拉致された日本人を救うための全国協議会(救う会)」の西岡力副会長が中心となって、安明進氏から詳しい聞き取り調査をおこなった。

 安明進氏は、1988年11月、当時は「党直属政治学校」と呼ばれていた金正日政治軍事大学の2年生当時に、航海講座の副講座長だった60歳くらいの呉求鎬教官から、授業中に日本人拉致について聞いたという。呉求鎬は教官として赴任する以前は、1961年頃から党作戦部の清津連絡所に配置されて、日本への侵入を繰り返していたベテラン戦闘員で、「共和国英雄」の称号も授与されていた。戦闘員として17年間務めた後も、連絡所で「方向長(部隊長)」や党書記など幹部として、1980年代半ばまで清津連絡所にいたという。

 安明進氏が西岡力氏に語ったところによれば、呉求鎬たちは能登半島に向かう夜、「工作船の明かりを消して、真っ暗な海を低速で進入していった」という。最初の手記にある「漁船のように明るいライトを点けて陸地に向かって進んだ」という部分は、筆記者か翻訳者、あるいは編集上の誤りだった。(つづく)







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