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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第63回


07月05日(土) 10時00分
文:惠谷 治 



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左上は1962年11月8日、大安電機工場を訪れ、製品を見ている金日成。私が調べた限りでは、金日成が眼鏡をかけている一番古い写真である。しかし、1963年に撮影した写真には眼鏡姿は1枚もない。右上は、1964年4月24日、慈江道前川郡にある商店の模範的販売員である鄭春実と話をする金日成。中段左は、1964年6月12日、安州郡(現安州市)の龍興協同農場で農業労働者と談話する金日成。中段右は、1964年9月20日、「中江地質探査隊を訪れ、探査の機械化水準をいっそう高めるよう教える」金日成。以上の3枚は、1964年前半に金日成は眼鏡をかけていたことを示している。ところが、下段左の「ホーチミン主席とハノイ郊外を参観する」写真(1964年11月)と、下段右の「総連幹部子女の寄宿舎を訪れ、親身になってその生活を見守る」という写真(1964年12月5日)で、金日成は眼鏡をかけていない。翌1965年、66年の写真でも、ときおり眼鏡姿はあるものの、基本的に金日成はまだ眼鏡をかけていない。ちなみに、ベトナム戦争中の1964年11月に金日成がハノイを訪問したのは極秘だったために、その事実はほとんど知られていない
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第63回] 工作船による潜入状況が具体的に明らかになった神田事件

 1964年3月30日、金日成総合大学を卒業した金正日は、4月21日、党中央委員会書記局の参事室に配置され、党生活をスタートさせた。金正日が対南工作部署に関係してくるのは、まだ10年先のことである。

 金正日が党中央委員会に勤務し始めた4月、戦前(1934年)に渡日し、早稲田実業学校に在学していた経験のある李龍鉄(日本名は石田源作、逮捕時44歳)は、工作員に徴用された。李龍鉄は終戦直後に北朝鮮に引き揚げ、共和国成立後は消費組合の幹部として働き、やがて党員となった。李龍鉄は3カ月間のスパイとしての密封教育を受けたのち、1964年8月1日、北朝鮮製無線機、工作資金、乱数表などを携行して、京都府与謝郡伊根町蒲入付近の海岸から潜入した。

 李龍鉄の潜入状況について、供述の一部が例外的に明らかになっている。

 「……〔工作〕船は20トンほどの漁船だった。港を出てから1日半で京都府与謝郡伊根町の沖合に着いた。昼ごろだった。いったん、沖合の公海上に出て、夜更けを待った。午前零時に船は無灯火で陸に近づき、海岸から1キロほどのところで止まった。ゴムボートがおろされ、船員が櫓をこいで海岸についた。私だけが上陸した。ゴムボートの船員はひとこと『元気でな』といっただけでやみの海に消えた。家族のことが脳裏をかすめて、いたたまれないさびしさが襲った。しばらく海岸にすわりこんでいるうちにやがて、どうにでもなれというようになった……」(内外政治研究所編『スパイの世界』225頁)

 この供述から、潜入方式は工作船とゴムボートの2段階方式で、後に戦闘案内員と呼ばれるようになる船員によって、潜入工作員がゴムボートで運ばれていることが分かる。また、出港してから1日半で日本に着いているところから、出発地は元山とも考えられるが、高速の工作船で清津から来た可能性も否定できない。

 李龍鉄は上陸すると、無線機や工作資金を付近の地中に埋設し、北朝鮮で指示された「土台人」と会うため、東京に向かった。神田で喫茶店を経営していた「土台人」の鄭龍文と会った李龍鉄は、1枚の写真を見せて「私に協力しなさい」と迫った。写真には、戦前に鄭龍文が北朝鮮で結婚してもうけた息子が、李龍鉄と一緒に写っていた。北朝鮮には鄭龍文の妻の妹も住んでおり、李龍鉄はその妹の話もしながら「元気で暮らしている」と話した。鄭龍文の息子や義理の妹など「土台人」の北朝鮮に住んでいる肉親は、「土台部」と呼ばれ、工作活動の人質代わりになっているのだ。

 結局、鄭龍文夫妻は李龍鉄に協力するしかなく、李龍鉄は鄭龍文宅に住み着くようになった。そして、鄭龍文を部下のように使い、やがて補助工作員に仕立て上げるのが、潜入工作員の常套手段だった。

 李龍鉄は鄭龍文宅に住み着いて1週間後、上陸地点に埋設した無線機と工作資金(3000ドル)を回収してくるよう鄭龍文に命じた。鄭龍文は不案内な現場付近で不審な動きをしていたため、京都府警から職務質問を受けたが、なんとか切り抜け、首尾よく埋設物を掘り出して帰京した。鄭龍文は3000ドル(108万円)を鄭龍文に両替するように命じ、闇ドルブローカーを探して102万円に換金し、その金を自分の口座に預金した。

 その後、李龍鉄は鄭龍文宅を出てアパートに移り、貿易会社を設立して社長となり、日本名の身分証明書を偽造した。一方で、鄭龍文に命じて外国人登録証明書を偽造させ、鄭龍文に紹介された日本人女性と埼玉県川口市で同棲生活を始めたが、日本人妻は李龍鉄を日本人だと信じ込んでいたという。

 李龍鉄は毎月5日と16日に平壌放送を聞きながら、A3方式(乱数放送)で伝えられる北朝鮮からの指令を実行していた。

 李龍鉄の補助工作員となった鄭龍文は、李龍鉄に命じられて、東京都内の電話帳、列車時刻表、紳士録、都内や関東の地図など30枚、そして造船や自動車に関する書籍を購入した。11月下旬、それらを新潟に運び、李龍鉄に指示された帰国者に手渡していた。

 こうした鄭龍文の動きを監視していた京都府警は、1964年12月23日、鄭龍文を逮捕した。当然ながら、李龍鉄も監視対象となっており、1965年3月15日、埼玉県に潜伏していたところを警視庁に逮捕された。この事件は「神田事件」と呼ばれている。(つづく)







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