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ソバカシン


07月08日(火) 17時55分
 


 人は誰しも身体上の特徴を有している。

 ガキの頃、そうした特徴があだ名になったケースは数多い。

 「アゴ浦」(苗字はナガウラ。アゴが飛び出た少年)

 「鼻毛リラ」(はなげりら:ゴリラ然として風貌で、いつも鼻毛が飛び出ていた少年。鼻毛+ゴリラの造語)

 「目上縫い」(ケガによってまぶたが切れ、縫合した少年)

 「デブナメ」(デブのくせに、ナメクジのようにすぐ消え入りそうな気の弱い少年)

 「犬禿げ」(いぬはげ:犬に後頭部を噛まれ、一円玉大の禿げが出来上がってしまった少年)

 「ピストン」(放課後、中学校で手淫を公開し、一部の女生徒にまで人気を博した性年)

 「陰金」(局部が大きいことをいつも自慢していた不審者。自慢は現在進行形)

 「能無し」(学力は平均以上だが、顔はその反対にしか見えなかった少年)

 「デブ」(ただのデブ)

 「ロリ山」(苗字はナカヤマ。文字通り、ロリーターしか眼中になく、それが転じて恥ずかしい名前になった少年」

 「ジャージ君」(苗字はショウジ。いつも上着は学ラン(学生服)、下はジャージを履くスポーツマン。後に不良の仲間入りを果たし、蛇痔様を気取る)

 「胃液内」(苗字はオサナイ。リバース後の胃液が特段に臭い秀才。後に「胃液アル」に改名)

 書けばきりがないほどだが、一部に身体的な特徴とは異なるあだ名を紹介してしまったことを詫びる。

 最初の「アゴ浦」の場合、みんなナガウラを発見すると「アッゴ、アゴ、アゴ、アッゴッゴ」と歌う。そのハーモニーは、洗練された少年合唱団のようだが、ナガウラは耳が遠いため、歌声は次第に大きくなり、結局ナガウラは「やめてくれーっ」と怒る。

 互いに外見上の欠点をあだ名にして叫ぶことは、極上の喜びであり、陰湿ないじめとは掛け離れたものと認識していた。当然、問題は起こらなかったが、いま思えば、どいつも「堪えがたきを堪え、忍びがたきを忍び」の胸中だったに違いない。

 「そばかすなんて きにしないわ ハナペチャだってだってだっておきにいり……」

 テレビアニメ「キャンディ・キャンディ」の主題歌だ。

 俺のガキの頃のあだ名は「ソバカシン」。顔のあちこちに雀斑(そばかす)があり、俺以上はもちろん、俺の半分でも雀斑がある奴にはお目に掛かったことはないというすごさだった。

 主題歌の影響もあり、「外人ぽくっていいか」と思ったのも束の間、鏡に映るヒョウのようなテメェの面には、やはり驚愕したものだ。少女キャンディとの違いは、ハナペチャというより鷲鼻であった点で、さすがに主題歌を連続合唱された日には、怒り狂った。しかも、あだ名は怪獣のような「ソバカシン」。考えたヤローも大したものである。

 とある日、母親に「何で俺にはこんなに雀斑があるんだ」と聞くと、「お母さんにあるからでしょ。一度、腸を取り出して洗浄するときれいに消えるらしいわよ」と物騒な返答をされた。

 やむなく、「それじゃあ、無理だな」と諦めた俺は、ソバカシンとして生きていくことになった。

 高校時代まで「ソバカシン」と呼ばれていた俺は、大学生の頃から雀斑がかなり目立たなくなり、ソバカシンは短い生涯を終えたのである。「アゴ浦」も「犬禿げ」も、特徴を生かしたまま健在なだけに、少々残念ではある。











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