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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第74回


08月07日(木) 00時00分
文:惠谷 治 



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上段は、元山港に連行されたプエブロ号。船体の「GER2」は「ゼネラル・エンヴァイロメント・リサーチ(環境調査艦)2号」の略であるが、2本のマストには様々な電子機器が設置されており、情報収集艦であることを示している。プエブロ号は50口径機関銃を2門搭載していたが、駆潜艇から砲撃されても秘密文書廃棄などの作業を優先し、反撃することはなかった。中段は、プエブロ号艦長のロイド・ブッチャー中佐を先頭に、乗組員83名(うち1人死亡)が、元山港に上陸した直後の写真である。乗組員たちは身柄を拘束されて厳しい取り調べを受け、解放されたのは11カ月後のことだった。下段は、平壌の朝鮮革命博物館に展示されている模型で、プエブロ号を拿捕した北朝鮮海軍のSO1級駆潜艇(SC-35)である
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第74回] 瀕死の韓国人捕虜の前で自白を強要されたプエブロ号の艦長

 青瓦台襲撃未遂事件が起きる2日前の1月19日、ベトナム戦争での北爆のためトンキン湾に向かう米海軍原子力空母「エンタープライズ」(7万5700トン)が、乗組員の休養のため佐世保に寄港した。潜水艦以外の原子力艦艇が日本に寄港したのは初めてのことで、ベトナム戦争への加担、核兵器持ち込み疑惑などを問題視する全学連各派の左翼学生、社会党や共産党の党員、総評など労働組合員たちが、全国から佐世保に集まり、「エン・プラ入港反対」を叫んで、警官隊との激しい衝突を繰り返した。

 プエブロ号拿捕事件が発生した1月23日、「エンタープライズ」は急遽、佐世保を出港し、北爆任務を中断して、北朝鮮海域に急行した。
 
 1月24日夜の平壌放送は、プエブロ号の艦長ロイド・ブッチャー中佐が、CIAの指令のもとに北朝鮮の領海内でスパイ活動をしていたことを自白した、と報じた。後日(1969年初頭)、米海軍査問委員会の喚問を受けたブッチャー艦長は、取り調べ室に連行され、虚偽の自白をせざるを得なかった状況を、次のように証言した。

 「その部屋の隅には20代と思われる青年が裸にされて、縛られ、つるされていた。体のあちこちの骨がむき出しになっており、一方の目は血で真っ赤になってふくれあがっており、息も絶え絶えのようだった。北朝鮮の担当官は『あの化け物は南朝鮮から侵入した軍人のスパイだが、お前も調査に協力しなければあのようになるぞ』と脅された」(金学俊『北朝鮮50年史』274頁)

 ブッチャー艦長の弁明は、その夜、テレビで全米に放映されたという。

 「今、米国の奴らは“プエブロ号”が拿捕されたため、太平洋艦隊32隻を元山の沖合いに集めて報復すると恐喝している。しかし、いまだに船員がわが方に捕らえられているため、米国の奴らはむやみに発砲することができないだろう…われわれは戦争を望むことも恐れることもないが、戦争は何としてでも防ぐべきだ。<略>

 われわれがベトナムの空軍を支援したのも操縦士らを訓練させるためだった。ベトナム戦ではソ連、中国そしてわが国の飛行隊が交替でハノイ上空を守ったが、わが飛行隊が守っているときには米国の奴らの航空機がハノイに入れなかったそうだ。それくらい米国の奴らもわれわれを怖がっている」(『金日成の秘密教示』88、92頁)

 事件直後に開催された党中央軍事委員会で、金日成は以上のように語った。そして、プエブロ号を拿捕した人民軍第661軍部隊と沿岸警備隊第2423軍部隊を讃えたという。しかし、北朝鮮の内情に詳しいハワイ大学の徐大粛教授は、当時の金日成の心理状態を以下のように鋭く分析している。

 「中国と緊張状態にあり、ソ連とは鋭い対立関係をかろうじて解消しつつあるときに、アメリカに対して直接対決を企てることは、とても考えられないことであった。アメリカの空母エンタープライズが日本海に移動してくると、金日成はパニック状態に陥って全軍に動員をかけた。金日成はこれまであまりにも長い間、そしてあまりにもしばしば自立路線を叫んできた手前、これまで事につけ援助を求めてきた国に支援を求めることもできず、<略>金日成自身、自分の自主防衛の思想を試す用意はまったくなく、ましてやこの恐るべき敵が相手となれば、それどころではなかった」(『金日成』265頁)

 当時、北朝鮮では2月8日の朝鮮人民軍創建20周年を祝う祭典の準備が進められていたが、すべての祝賀行事は中止となり、記念日当日の式典は規模を縮小して実施された。

 ベトナム戦争を遂行していたアメリカは北朝鮮に対する軍事報復を断念し、北朝鮮が要求する交渉に応じ、板門店で28回もの会談の末、領海侵犯とスパイ活動を認めるという北朝鮮が作成した謝罪文にサインした。その結果、プエブロ号の乗組員たちはクリスマス直前の12月23日に板門店で解放されたが、プエブロ号の船体は返還されることはなかった。

 プエブロ号は長年、元山港に係留されていたが、1999年10月、曳航されて日本海側から朝鮮半島南端を迂回して、黄海側を北上し、平壌を貫流する大同江に移された。そして、「忠誠橋」近くの河畔に係留され一般公開されるようになり、今では北朝鮮の「学習観光の名所」となっている。いずれ、米朝関係が好転した暁には、金正日はプエブロ号返還の代償として、米国から新たな援助を取り付ける魂胆に違いない。(つづく)







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[第51回]南朝鮮総局の傘下に入った党連絡部、党文化部、党調査部
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[第52回]1950年代半ばに対日工作員の日本潜入方式を確立
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[第53回]戦前に日本で生活した経験者を対日工作員として徴用
http://www.bnn-s.com/news/08/06/080602134634.html

[第54回]対南工作機関は「対南事業総局」と改称されて規模を拡大
http://www.bnn-s.com/news/08/06/080605142340.html

[第55回]社会安全省と人民軍偵察局の対南工作活動も強化された
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[第57回]潜入工作員が密航者だと警察に偽装自首する手法も登場
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