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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第75回


08月10日(日) 11時00分
文:惠谷 治 



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左上は、金日成に工作員として高く評価された金鍾泰。右上は、金鍾泰を協力工作員に引き込んだ統革党全羅南道委員長の崔英道。下の写真は、処刑された金鍾泰に因んで「金鍾泰電気機関車工場」と改名された平壌の工場を現地指導する金日成(撮影年月不明)。統革党ソウル市委員長の金鐘泰や崔英道らが逮捕されても、韓国内の下部組織は健在だとして、金日成は統革党の再建を命じた。摘発事件から1年後の1969年8月、北朝鮮は『労働新聞』や平壌放送を通じて、韓国内に「統一革命党中央委員会」が創設されたと発表し、北朝鮮南部の黄海南道海州市から、「統一革命党の声」という謀略放送を流すようになった。1970年代になると、北朝鮮は逮捕された南派工作員を、スパイではなく統革党の党員だと宣伝した。「統一革命党の声」放送は、1985年から「救国の声」と名称変更したが、南北頂上会談後の2003年8月1日に放送は停止され、今日に至っている。党連絡部の元工作員の金用珪氏によれば、北朝鮮は、1994年に工作員を派遣して、金鍾泰の妻や遺族の消息や所在を確認していたという
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第75回] 金日成に工作員として高く評価された統一革命党の金鐘泰

 プエブロ号が拿捕されても、米国のリンドン・ジョンソン大統領は軍事的な奪還に踏み切らなかったため、韓国の朴正煕大統領は青瓦台襲撃未遂事件に対する報復攻撃を諦めざるを得なかった。

 しかし、朴正煕大統領の腹心だったKCIAの金炯旭部長(第64回参照)は、「我われも一発やります」と進言して、北朝鮮の第124軍部隊に対抗する特殊部隊を極秘裡に創設した。1968年4月1日に創設されたところから「684部隊」と呼ばれ、仁川沖の実尾島(シルミド)で秘密訓練を受けていたため「シルミド部隊」とも呼ばれる特殊部隊(正式には韓国空軍第7069部隊所属2325戦隊209派遣隊)の物語については、本論を離れ長くなるので、韓国映画『シルミド』や近年に刊行された書籍に譲ることにする。

 北朝鮮の許鳳学が指揮する人民軍偵察局の武装ゲリラの南派は、その後も続き、6月8日には、軍事境界線中央部の江原道鉄原郡城南洞(位置未確認)から韓国に浸透した第124軍部隊のゲリラ16人が、韓国軍の対ゲリラ部隊に探知され、掃討されるという事件が起きている。

 1968年8月2日、KCIAは「統一革命党(統革党)地下間諜団事件」を摘発し、統革党ソウル市委員長の金鐘泰ら158人を逮捕した、と発表した。統革党を使った対南工作は、人民軍偵察局ではなく、党連絡部ソウル・京畿道課が担当していた。

 韓国の全羅南道務安郡の西方には多数の島々があるが、任子島という島で面長(村長)をしていた崔英道が、1961年12月、甥である南派工作員の金スヨンに包摂されたのが、統革党事件の始まりだった。崔英道は秘密裏に平壌を3回も訪れ、朝鮮労働党に入党した。全羅南道の責任者となった崔英道は、任子島を根拠地として地下党組織を構築した。平壌の党連絡部からソウルの有力者を包摂しろという指令を受けた崔英道は、南派工作員を大邱市に派遣し、慶北労働新聞の顧問などをしていた金鍾泰を抱き込んだ。ソウルの東国大学出身の金鍾泰は、1947年の大邱10月暴動の首謀者であり、筋金入りの活動家だった。

 包摂された金鍾泰は任子島から工作船で南浦に密入北し、平壌郊外で工作員教育を受けて韓国に戻ると、李文奎(『青脈』紙編集長)、金ジンラク(民族解放戦線責任書記)、李ジンヨンら友人や親戚を糾合して、1964年3月15日、統一革命党ソウル市指導部を結成した。金鍾泰は北朝鮮を4回も往来して、工作資金や秘密指令を受け取り、その間に金日成とも面会していた。

 金日成は1963年12月の対南工作担当者たちとの談話で、次のように“教示”した。

 「現在、南朝鮮では5・16革命〔1961年の軍事クーデター〕によって完全に没落した人が多い。彼らすべてが朴正煕軍事政権に対して歯軋りをしており、そのなかには政治家・旧官僚もおり、良識ある知識人・宗教人・言論人も多いが、金鍾泰のようにわれわれとつながりを持つ者がいくらでも出てくる可能性がある。問題は、われわれ革命家が大胆に接近するのに好ましい対象を物色すべきことだ。金鍾泰のような者を3〜4人も引き込めば、南朝鮮で革命を起こすことも、祖国統一の大きな出来事を迎えるのも時間の問題である」(『金日成の秘密教示』103頁)

 金日成から高く評価されていた金鍾泰は、「新文化研究会」「青年文学家協会」「仏教青年会」「東学会」「青脈会」「民族主義比較研究会」「60年代学士会」などの偽装団体を組織し、『青派』『革命戦線』などの機関誌を発行し、ソウル市内の数カ所で「学舎酒店」を経営しながら、北朝鮮の統一路線の宣伝・煽動活動をおこなっていた。

 しかし、金鍾泰が構築した組織網は、KCIAに摘発され、検挙された158人のうち73人(うち23人は非拘束)が送検され、金鍾泰を含む首謀者4人に死刑が宣告された。

 「統一革命党指導部が破壊されたことによって、わが方は莫大な損失を被った。金鍾泰トンムは敵の拷問により獄死したが、革命家として志操を曲げず脱獄も試み、法廷闘争も立派に行った。金鍾泰トンムがこのように、黙秘権を行使して壮烈な最後を遂げたため、その下部組織が生き残れるようになったのだ。このトンムに党中央委政治委員に次ぐ待遇をすべきである。…こうしてこそ、南朝鮮革命家と組織員が金鍾泰トンムのように獄中でも革命的志操を最後まで守ることができるのだ」(『金日成の秘密教示』118頁)

 統革党事件から4カ月後(1968年12月)、金日成は「3号庁舎(対南工作機関)」の部長会議において、以上のように金鍾泰を讃えた。しかし、金鍾泰は実際には獄死してはおらず、死刑が執行されたのは翌年7月10日だった。金鍾泰の死後、「共和国英雄」称号とともに国旗勲章第1級が授与され、7月13日から1週間は金鍾泰同志を追慕する週と定められ、北朝鮮各地で大々的な追悼式がおこなわれた。そして、工作員の名前を冠した「金鍾泰電気機関車工場」「金鍾泰海州第1師範大学」などの名称が誕生した。(つづく)







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[第3回]「唯一指導体系」で自分への絶対忠誠を要求した金正日
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[第9回]満洲パルチザン派とソ連派が開設した「平壌学院」
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[第10回]金日成が新設した党幹部養成機関「党熱誠者学校」
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[第11回]非業の死を遂げた民族派キリスト教徒の★晩植
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[第34回]対南工作を実施した人民軍最高司令部直属の526軍部隊
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[第35回]国内派(南労党)の牙城だった工作員養成機関「金剛学院」
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[第36回]対日工作員は朝鮮戦争中でも養成され日本に潜入していた
http://www.bnn-s.com/news/08/04/080414151453.html

[第37回]朝鮮戦争中にソ連派重鎮の粛清に成功した金日成
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[第38回]クーデター発覚によって廃止させられた金剛学院
http://www.bnn-s.com/news/08/04/080418143420.html

[第39回]朝鮮戦争後に組織改編された対南工作機関
http://www.bnn-s.com/news/08/04/080422120517.html

[第40回]1950年代に日本に潜入していた工作員は内務省所属
http://www.bnn-s.com/news/08/04/080424163248.html

[第41回]朝鮮戦争直後の拉致の疑いが濃厚な「特定失踪者」
http://www.bnn-s.com/news/08/04/080425101500.html

[第42回]朝鮮総連の誕生直後に工作員に包摂された在日朝鮮人
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[第43回]国家情報委員会と内閣情報総局は実在していたのか
http://www.bnn-s.com/news/08/05/080502105451.html

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[第46回]1950年代後半に対南工作を担当した3大機関の実態
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[第47回]北朝鮮に拉致された後に粛清された「入北者」たち
http://www.bnn-s.com/news/08/05/080517111443.html

[第48回]南派工作員が関与していた4・19学生革命の始まり
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[第49回]「赤化統一」を未然に防いだ朴正煕少将の5・16軍事クーデター
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[第50回]1961年9月の第4回党大会以後に誕生した南朝鮮総局
http://www.bnn-s.com/news/08/05/080526143802.html

[第51回]南朝鮮総局の傘下に入った党連絡部、党文化部、党調査部
http://www.bnn-s.com/news/08/05/080528154511.html

[第52回]1950年代半ばに対日工作員の日本潜入方式を確立
http://www.bnn-s.com/news/08/06/080601145544.html

[第53回]戦前に日本で生活した経験者を対日工作員として徴用
http://www.bnn-s.com/news/08/06/080602134634.html

[第54回]対南工作機関は「対南事業総局」と改称されて規模を拡大
http://www.bnn-s.com/news/08/06/080605142340.html

[第55回]社会安全省と人民軍偵察局の対南工作活動も強化された
http://www.bnn-s.com/news/08/06/080610144708.html

[第56回]北朝鮮から届いた写真の人物は加瀬テル子さんだった
http://www.bnn-s.com/news/08/06/080612144021.html

[第57回]潜入工作員が密航者だと警察に偽装自首する手法も登場
http://www.bnn-s.com/news/08/06/080616154311.html

[第58回]工作員のゴムボート使用とピストル武装が初めて確認された能代事件
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[第59回]寺越事件の家族を訪朝時に迎えたのは工作機関の党連絡部日本課長
http://www.bnn-s.com/news/08/06/080620105823.html

[第60回]寺越事件の犯人は清津連絡所のベテラン戦闘員だった呉求鎬
http://www.bnn-s.com/news/08/06/080623170504.html

[第61回]寺越武志さんをかばって抵抗し射殺された寺越昭二さん
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[第62回]1日に2カ所同時に工作船を派遣できるようになった北朝鮮
http://www.bnn-s.com/news/08/07/080630160536.html

[第63回]工作船による潜入状況が具体的に明らかになった神田事件
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[第64回]1964年8月に摘発された韓国の「人民革命党事件」は真相不明
http://www.bnn-s.com/news/08/07/080707154621.html

[第65回]韓国軍によって初めて捕獲された人民軍偵察局の小型潜水艇
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[第66回]党中央委員会委員長に代わって党総書記が新設された理由
http://www.bnn-s.com/news/08/07/080712163232.html

[第67回]粛清騒動で対南事業総局は解体され対南工作担当書記を新設
http://www.bnn-s.com/news/08/07/080714155349.html

[第68回]金日成が最高人民会議で言及した韓国内のスパイ組織
http://www.bnn-s.com/news/08/07/080717163402.html

[第69回]半島統一を目指して1967年に再編された第124軍部隊
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[第70回]日本の官公庁を震撼させた総連工作員の「外務省スパイ事件」
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[第71回]北朝鮮の対南工作活動を在日朝鮮人密輸組織が支援
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[第72回]「青瓦台を襲撃し、朴正煕の首を取れ」と命令された工作組
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[第73回]兵装転換に手間取りプエブロ号救出に間に合わなかったF4ファントム
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[第74回]瀕死の韓国人捕虜の前で自白を強要されたプエブロ号の艦長
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[第76回]1度の浸透では朝鮮戦争以来最大規模の蔚珍・三陟侵入事件
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[第78回]朝鮮総連の活動家も工作員教育のため工作船で北朝鮮に
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[第79回]体をゴムボートに縛りつけられて工作船から投げ出された工作員
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[第80回]日本人戸籍を入手し「背乗り」して真正旅券を不正に取得
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[第85回]1960年代末の特定失踪者は6人全員が10代後半の青年
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[第86回]1969年11月の会議で日本人拉致の必要性を述べた金日成
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[第87回]北朝鮮に拿捕された韓国漁船の乗組員を工作員として教育
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[第88回]潜入工作員と出迎える在日工作員がトランシーバーで連絡
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[第89回]偵察局の工作員養成機関であることが明らかになった第198軍部隊
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[第93回]人民軍偵察員から党調査部の工作員に移籍された辛光洙
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[第94回]船外機付きゴムボートの侵入が初めて確認された「温海事件」
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[第95回]工作員専用の915病院で目撃された日本人拉致被害者
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[第96回]渡辺秀子さん殺害と子供2人の拉致を指示した女性工作員
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[第97回]訪日韓国人が多数包摂されていた「鬱陵島拠点間諜団事件」
http://www.bnn-s.com/news/08/10/081014104524.html

[第98回]李厚洛KCIA前情報部長の拉致を命じた金日成
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[第99回]遠隔操作で朴正煕大統領を爆殺する装置を新たに開発
http://www.bnn-s.com/news/08/10/081020105201.html

[第100回]在日韓国人を包摂し大統領狙撃犯に仕立て上げた朝鮮総連
http://www.bnn-s.com/news/08/10/081021155348.html

[第101回]工作員の証言で新たに判明した日本人拉致被害者
http://www.bnn-s.com/news/08/10/081025092020.html

[第102回]日本人化教育の教官獲得のため拉致を定式化させた金正日
http://www.bnn-s.com/news/08/10/081028153758.html

[第103回]すべての活動は金正日の「唯一指導体系」に対する忠誠心競争
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081030163315.html

[第104回]小泉首相に「特殊機関の一部が恣意的に拉致した」と答えた金正日
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081104123642.html

[第105回]帰国して子供たちと再会した後も口を開かない拉致被害者たち
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081105145221.html

[第106回]曽我さん親子を拉致した女工作員の弟は有名なバイオリニスト
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081110143107.html

[第107回]横田めぐみさん以前に日本人拉致はなかったとする金正日
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081111100606.html

[第108回] 北朝鮮の説明から読み取る日本人拉致被害者の所属機関
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081114154336.html

[第109回]平壌で一時期共同生活をしていためぐみさんと曽我さん
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081117154502.html






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