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辻正仁の「音(オン)ラインにゅ〜す」 <ミュージシャンの性が選んだ環境>


09月17日(水) 09時40分
文:辻 



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ニューヨークのミュージシャンらとの親密な空気が凝縮されたニューアルバム
 〜 「Music From The Magic Shop」 〜

 シンガー・ソングライター「おおはた雄一」が9月10日に発表したニューアルバム「Music From The Magic Shop」は、タイトル通り、ニューヨークにあるレコーディング・スタジオ「Magic Shop」で、約1カ月に渡ってレコーディングされた作品集だ。

 この「Magic Shop」というスタジオは、ノラ・ジョーンズ周辺の音楽仲間が頻繁に使うスタジオで、今回のアルバムのプロデューサーしてクレジットされている
リチャード・ジュリアン、ジェシー・ハリスの2人もいわゆる「ノラ・ジョーンズ・ファミリー」のシンガー・ソングライター。いずれも、ノラのデビュー以前から、曲提供やバックアップ・メンバーとして彼女の活動を支えてきた音楽仲間で、ノラの成功によって、自分たちのキャリアにも弾みをつけた人達。もちろん、このアルバムにも、演奏やバックコーラスとしても参加している。

 かつて日本のアーティストの海外レコーディングと言えば、宣伝文句のための“ハク付け”みたいなものが多かった。あまり必然性も感じないが、日本でヒットした後にちょっと本物っぽい感じで録音しましょうよ。といったノリの作品が多かった。まだ洋楽こそが本物であり、日本のミュージシャンの技量が追いついていないと思われてた上に景気の良かった時代の話である。

 その後は、本格的に海外進出を試みる者や、海外で生活しレコーディングすることで、日本にいてはできないことをやろう、日本の音楽シーンに何かを持ち帰ろう、という真摯な挑戦をする人達が見受けられた。

 でも、ここのところそうした話題もあまり聞かなくなった。時代が変ったと言えばそれまでだが、作り手よりも、聴く側のほうがどこでレコーディングしたかなんてことに大して興味を持たなくなったのかもしれない。例え海外に録音しに行っても宣伝として打ち出す価値がなかったり、機材の充実という点で言えば、日本のほうが恵まれた環境でレコーディングできたりする。

 そんなご時世にわざわざスタジオの名前を出したアルバム、ようするに「ここで作った音楽です」と言っているタイトルにどれだけの意味があるのだろう?

 おそらく、商売的にキャッチーなタイトルではない。一部の音楽マニア以外には「マジック・ショップで作りました」と言われてもピンとこないだろう。ニューヨークで録音と言ったって「ふ〜ん」と言われて終わりだろう。

 それだけに、わざわざこんな商売的に分の悪いタイトルを付けた、「おおはた雄一」の音楽人としての誇りを感じずにはいられない。よっぽどの手ごたえを感じていなければ、いまどきこうしたタイトルは選べない。選んだ以上は、内容は充実した作品になっていて、内容を聴けばこのタイトルがシンプルゆえに力強い声明として伝わってくる。この飛躍した論理についてきてますか?

 ニューヨーク、「Magic Shop」でノラ・ジョーンズ周辺のミュージシャンと共にレコーディングしたというのは、現在のシンガー・ソングライターとして、アコースティックサウンドを主軸とした音楽を作る上で、最も旬な環境に身を置いたということである。

 今回プロデュースをしたリチャード・ジュリアン、ジェシー・ハリスらの音楽を聴いていると、いずれもジャズ、カントリー、ソウルミュージックといった、いわばルーツ・ミュージックを咀嚼しながら、都会生まれの音楽としてのクールさを味わいに加えていることがわかる。懐かしさのただよう音楽を奏でながら、決してウエットなムードに溺れない洗練された音楽なのである。加えては、そんな都会の中で人脈を築き仲間同士で豊かな音楽を分かち合うという姿勢が、彼らの音楽をさらに味わい深いものにしている。

 お互いに曲を提供しあったり、客演したり、時には仕事抜きのセッションを未だに楽しむという彼らの姿勢とそこから生れる音楽は、機能化、合理化が重宝される都市生活の中での、小さなコミュニティのような、心休まる寛ぎを与えてくれるものだ。

 こうした特長は、おおはた雄一の音楽を最良な形で表現できるスタイルでもある。「情緒的になり過ぎないハートウォーム」と言えばいいだろうか? 

 おそらく、おおはたが欲しかったのは、そうした彼らの音楽に取り組む姿勢であり、そこで生れる空気を呼吸しながらのレコーディングだったのだろう。相手が高い評価を受けているプロデューサーだとか、ニューヨーク録音というお題目欲しさというより、「今、一番豊かな音楽を作れる場所を」という“ミュージシャンの性”が選んだ場所と人選だったはずだ。

 レコーディングは、一日に3〜4曲を早いペースで録音し、その後皆で食事に行き、そこで生れたアイディアをまた翌日に試みるというような形だったそうだ。誰もが「自分の作品」のように関わりながら、自分の持っているものを分かち合って生れた音楽といえるだろう。

 全員が顔を合わせ音を出しあい、ああでもないこうでもないと言いながらの録音する。企画やマニュアルありきではない、音楽主導のレコーディングであることは、アルバムに流れている空気から充分に感じ取れる。

 日本でも、やがてはこうした音楽仲間同士が主体となって一つのムーブメントを形成するような音楽の作り方ができるだろうか?このアルバムを聴きながら、そんなことを考えてみた。

 そうなるためには、いま一度、かつてとは違う意味合いを持って海外録音を経験してみるのもいいかもしれない。アーティストが自分を取り巻く環境に制限され慣れてしまってはいけない。持っているはずの“ミュージシャンの性”に従って、もっと豊かな音楽を生み出せる場所へと飛び出して行ってもいいんじゃないだろうか?各々がそんな音楽を持ち帰ってくれば、受け取る側の聴き方もすいぶん変るように思う。







■辻 正仁(つじ まさひと)

1966年生まれ。
フリーライター、FMドラマシティ「海月屋本舗(毎週月曜18時)のパーソナリティ、シンガー・ソングライター等々、様々な分野で活動中。
自主制作レーベル「海月屋(くらげや)」主宰。



関連サイト

おおはた雄一 オフィシャルサイト
http://www.yuichiohata.com/index.html






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