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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第89回


09月21日(日) 11時00分
文:惠谷 治 



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1971年8月23日、韓国で脱走兵たちによるバス・ジャック事件が起こった。北朝鮮の人民軍偵察局の第124軍部隊に対抗して創設された韓国軍「中央遊撃司令部648特攻隊」は、基幹要員(指導員)と訓練兵(工作員)の31人で構成されていた(第75回参照)。実尾島(シルミド)で秘密訓練を受けていたため「シルミド部隊」と呼ばれる特殊部隊は、金日成主席宮に侵入して金日成を暗殺することを目的に、1968年4月1日に創設された。訓練兵たちは1年以上におよぶ過酷な訓練に耐え、1969年10月上旬に念願の北派命令が下ったが、直後に中止となった。目標を失い、待遇も悪化していく中で、不満を募らせた訓練兵たち23人は、大統領に直訴するため武装して実尾島を脱出したが、目的を果たせず自爆した。左上は、舞衣島から見た実尾島の全景。右上は、シルミド部隊の訓練基地全景。中段は、シルミド部隊の訓練兵たちで、左端の骸骨の下には「我らの信条」と書かれている。下段は、脱出した訓練兵たちが仁川でバスを強奪し、ソウルに向かう途中で警官隊に阻止された後に自爆し、19人が死亡した際の遺体検分の状況。左のマイクを向けられているのは、青瓦台事件の生き残りの金新朝元少尉。警官隊との衝突で生き残った訓練兵4人は軍事法廷で死刑を宣告され、1972年3月10日に処刑された。写真はファン・サンギュ著『実尾島』、イ・スグァン著『シルミド』より転載
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第89回] 偵察局の工作員養成機関であることが明らかになった第198軍部隊

 1971年2月下旬、北朝鮮の機械工学研究所で研究員を10年間勤めていた辛光洙(当時42歳)は、朝鮮人民軍(人民武力部)偵察局の偵察員に徴用され、対南工作訓練機関である第198軍部隊に入校させられた。

 「泰川に本部を置く907陸軍部隊は、韓国陸軍軍人の逃亡者または被拉致者を訓練し戦力化する部隊である。平壌周辺で隠れ家を運営する第198陸軍部隊は、連絡部隷下の第940、第695各陸軍部隊に類似の機能を遂行した。<略>元山に本部を置く第448陸軍部隊は海事部唯一の海上浸透部隊であり、特殊潜水具、ミニ潜水艇、半潜水高速艇および貨物船を運用し、隷下組織を黄海、日本海両海岸に配備する態勢を採っていた」(『北朝鮮特殊部隊』98頁) 。

 以上は翻訳文のため理解するのは困難だが、次のような意味である。

 1970年代初頭の偵察局は、陸上処所属の第907軍部隊(泰川)と第198軍部隊(平壌)、および海上処所属の第448軍部隊(元山)の3個の部隊から成っていた。第907軍部隊は韓国軍出身者で構成された部隊であり、第198軍部隊は第940軍部隊(党の工作員に対する個別養成機関で中央党政治学校の分校)や第695軍部隊(中央党政治学校)に類似した招待所をもつ偵察員(対南工作員)養成機関だった(第81回参照)。

 当時の偵察局には、この他に、第17、第60、第61の3個狙撃旅団があった。

 党の工作員ではなく、偵察局の偵察員(対南工作員)に選抜された事例が明らかになっているのは、日本では辛光洙だけである。

 辛光洙は、1929年6月27日、静岡県浜名郡新居町で生まれ、兵庫県尼崎市の立花小学校、富山県高岡市の国民学校に通った後、高岡工業高校機械科に入学した。高校3年のとき終戦を迎え、1945年10月に家族とともに韓国に引き揚げた。慶尚北道浦項市に住み着いた辛光洙は、韓国語が上手くなかったためか、5年制の浦項中学に第2学年として格下げ編入された。1948年2月、辛光洙は学生デモ(2・7救国闘争)に参加して指名手配されると、ソウルに逃れ、名門といわれる普成中学に通った。

 朝鮮戦争が勃発すると、辛光洙は自ら進んで北朝鮮の義勇軍に入隊し、朝鮮人民軍第1師団第14連隊の後方部糧食課書記として勤務し、北朝鮮に移り住んだ。1952年5月、辛光洙は22歳で朝鮮労働党に入党し、1953年2月には軍内での功績により「勲功メダル」を授与された。

 朝鮮戦争後、辛光洙は復興支援の一環である共産圏海外留学生選抜試験を受けて合格し、1954年10月、ルーマニアのブカレスト工科大学に入学した。1960年10月、機械工学部を卒業し、機械技師資格証を取得した辛光洙は、帰国後、朝鮮科学院機械工学研究所に配置され、研究員として勤務していた。

 偵察員に抜擢されると、辛光洙は清津にある偵察局第198軍部隊の招待所で約2年半、金日成革命史、主体思想、唯一思想体系などの政治思想を学習するとともに、射撃、地形学(軍事オリエンテーリング)、撃術(格闘技)、水泳などの肉体訓練を受けた。そして、情報収集法、マイクロ写真技術、通信方法、暗号作成などの工作実務を学び、有能な偵察員となった。辛光洙の工作活動については、後述することにしたい。

 1971年7月、北朝鮮の物理化学会の上級研究員だったという趙昌朝(偽装名は川島啓介、逮捕時52歳)は工作員に徴用され、2カ月間のスパイ教育・訓練を受けたのち、1971年9月下旬、乱数表、暗号表、工作資金などを携行して、島根県の美保の関海岸から潜入した。趙昌朝は東大阪在住の在日朝鮮人に、北朝鮮にいる妹の手紙を見せて「土台人工作」をおこない、補助工作員として獲得し、彼が経営する会社の住み込み社員に偽装就職して活動していた。1972年7月上旬、趙昌朝は工作事業報告のため、美保の関海岸から脱出した。北朝鮮で事業報告をおこない、再教育・訓練を受けたのち、1974年8月末、再び美保の関海岸から日本に潜入した。その後2年近く工作活動に従事していたが、金正日の大検閲による帰還命令を受け、脱出準備をしていたところを、1976年6月16日、大阪府警によって逮捕された。この事件は「布施事件」と呼ばれている。(つづく)







関連サイト

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[第38回]クーデター発覚によって廃止させられた金剛学院
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[第40回]1950年代に日本に潜入していた工作員は内務省所属
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[第41回]朝鮮戦争直後の拉致の疑いが濃厚な「特定失踪者」
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[第53回]戦前に日本で生活した経験者を対日工作員として徴用
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[第54回]対南工作機関は「対南事業総局」と改称されて規模を拡大
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[第55回]社会安全省と人民軍偵察局の対南工作活動も強化された
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[第56回]北朝鮮から届いた写真の人物は加瀬テル子さんだった
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[第57回]潜入工作員が密航者だと警察に偽装自首する手法も登場
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[第58回]工作員のゴムボート使用とピストル武装が初めて確認された能代事件
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[第59回]寺越事件の家族を訪朝時に迎えたのは工作機関の党連絡部日本課長
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[第60回]寺越事件の犯人は清津連絡所のベテラン戦闘員だった呉求鎬
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[第64回]1964年8月に摘発された韓国の「人民革命党事件」は真相不明
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[第100回]在日韓国人を包摂し大統領狙撃犯に仕立て上げた朝鮮総連
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[第102回]日本人化教育の教官獲得のため拉致を定式化させた金正日
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[第106回]曽我さん親子を拉致した女工作員の弟は有名なバイオリニスト
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081110143107.html

[第107回]横田めぐみさん以前に日本人拉致はなかったとする金正日
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081111100606.html

[第108回] 北朝鮮の説明から読み取る日本人拉致被害者の所属機関
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081114154336.html

[第109回]平壌で一時期共同生活をしていためぐみさんと曽我さん
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081117154502.html






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