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ジャーナリスト・惠谷 治「独裁者の秘密を徹底検証ドキュメンタリー金正日」
独裁者の秘密を徹底検証 ドキュメンタリー金正日 第91回


09月27日(土) 05時00分
文:惠谷 治 



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佐渡島の南端、小木町宿根木の海岸は上の写真のように岩場が広がり、いたるところに小さな洞窟(海蝕洞)がある。こうした地形を利用して、北朝鮮の工作員たちは、1960年代初めから、宿根木を工作船の着岸ポイントにしていた。1972年3月13日、工作員が宿根木から潜入するという情報を得た警視庁外事2課は、新潟県警の捜査員たちとともに海岸の岩陰に潜んで、工作船が侵入してくるのを待ち構えていた。しかし、情報が漏れたためか工作船は現われず、捜査員たちが付近を捜索した結果、新谷岬付近の岩場の洞窟(下の写真)に潜んでいた不審な人物を発見し、逮捕した。所持品検査から在日工作員であることが明らかだったが、外国人登録法違反の容疑しか適用できず、工作員は2日後に起訴猶予で釈放された。写真はいずれも筆者が「北朝鮮による拉致被害者の救出にとりくむ法律家の会」が主催した現地調査に参加して、2004年5月9日に撮影したものである
 第3部 独裁者・金正日権力の源泉
 第1章 党の謀略機関を掌握し拉致工作を定式化
 [第91回] 佐渡島宿根木の岩陰で工作員の潜入を待ち構えていた捜査員たち

 1972年3月13日の正午、佐渡島近海の石川県沖に不審船がいるという情報が、新潟県警警備部外事課に飛び込んできた。その数日前、警視庁公安部外事2課は、「13日夜、佐渡島の宿根木の着岸ポイントから工作員が潜入する」という電波情報をキャッチしており、監視対象が東京から佐渡に向かったのを確認し、尾行を続けていた。

 その日の深夜、佐渡島の南端、小木町宿根木の海岸の岩陰に、警視庁外事2課の捜査員が潜んで、工作員が潜入してくるのを待ち構えていた。少し離れた地点には、新潟県警外事課と所轄の相川署の捜査員たちも隠れていた。しかし、夜半を過ぎても工作船は現われず、捜査員たちが付近を捜索したところ、新谷岬付近の岩場の洞窟に隠れていた2人の男を発見した。

 捜査員が職務質問すると、1人は朝鮮総連福岡県本部の幹部で、外国人登録証明書を提示したが、他の1人は「伊藤重」名義の定期券を提示し、日本人だと主張した。しかし、任意の身体検査で外国人登録証明書が発見されたため、新潟県警は「伊藤重」を外国人登録法違反(提示拒否)の疑いで逮捕した。

 調べによると、逮捕された男は神奈川県川崎市在住で、愛知県出身の伊藤重こと「尹義重」(1939年生まれ)で、当時は中央大学法学部に在籍しており、韓国籍にもかかわらず朝鮮総連傘下の朝鮮留学生同盟に所属していた。警視庁外事2課の捜査員たちが東京から追跡してきたのは、この尹義重だった。

 尹義重は取り調べに対し、腕組みをしたまま口をきかず、完全黙秘を貫いた。所持品のなかには米軍基地に関する本や切り抜き、短波ラジオなどがあり、在日工作員であることは明らかだったが、容疑はあくまでも外国人登録法違反だったため、尹義重は2日後に起訴猶予で釈放された。新潟日報は独自取材で外国人登録法違反事件として、事件から4日後に、社会面一段という小さな扱いながら報じたが、新潟県警は事件を公表していないため、「宿根木事件」は公式の事件名にはなっていない。

 尹義重は2002年の小泉訪朝の前後に、暗躍した人物として知られている。

 尹義重が逮捕されるその2年前の1970年5月13日、宿根木から工作員が潜入し、佐渡汽船で東京へ向かった、と『海鳴40号』(横田めぐみさんなど被拉致日本人救出新潟の会の機関紙。2002年1月25日発行)に記載されている。その記述には、この工作員は1969年7月17日、秋田県の海岸から密出国し、北朝鮮で工作教育を受けた後に再潜入したと書かれているが、私が調べた限りでは、どの工作員なのか突き止めることはできなかった。『海鳴40号』には、1961年6月13日、佐渡島小木町の海岸から工作員が脱出した事例も書かれているが、この事件についても今のところ私は確認できないでいる。

 1972年4月、在日朝鮮人の李庸煥は、潜入工作員の李起宅とともに、秋田県の海岸から密出国し、北朝鮮で2年間にわたってスパイ教育・訓練を受けた。日本で生まれた李庸煥は、長崎県の高校を卒業した後、埼玉県の自動車整備技術学校に在学中だった1970年7月、北朝鮮から派遣された工作員の李起宅に包摂された。1974年5月、教育・訓練を修了し、兵庫県の海岸から再潜入した李庸煥は、韓国人の船員や技術修習生、密入国者などを工作員として獲得する活動をしていた。北朝鮮から召還命令を受けた李庸煥は、兵庫県豊岡市竹野町の切浜海岸から再度密出国するため、1974年9月19日の夜、工作船の到着を待っていた。工作船から船外機付きのゴムボートに乗って、案内員である咸国上(当時28歳) が切浜海岸から上陸したところを、沿岸警戒中の兵庫県警に逮捕され、翌日には李庸煥も逮捕された。李庸煥の所持品のなかから乱数表や暗号表が発見され、押収された。この事件は「切浜事件」あるいは「城崎事件」と呼ばれている。

 1972年11月1日、東京・港区役所麻布支所で電話交換手をしていた生島孝子さん(31歳)は、区役所に届けを出して勤めを休んだ。渋谷区に住んでいた生島孝子さんは、朝、同居していた妹に、「夕方、電話がきたら出かける」と話していたという。孝子さんは翌日出勤するときに着る服を揃えて出かけたが、その夜は何の連絡もなく帰宅しなかった。翌11月2日の夜、自宅の電話が鳴ると、しばらく無言の後、「今更仕方ないだろ」という男の声とともに、電話は切れた。以後、まったく消息不明となっており、特定失踪者問題調査会は北朝鮮に拉致された疑いが強いとして、1000番台リストに入れている。(つづく)







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[第40回]1950年代に日本に潜入していた工作員は内務省所属
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[第41回]朝鮮戦争直後の拉致の疑いが濃厚な「特定失踪者」
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[第52回]1950年代半ばに対日工作員の日本潜入方式を確立
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[第54回]対南工作機関は「対南事業総局」と改称されて規模を拡大
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[第55回]社会安全省と人民軍偵察局の対南工作活動も強化された
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[第56回]北朝鮮から届いた写真の人物は加瀬テル子さんだった
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[第57回]潜入工作員が密航者だと警察に偽装自首する手法も登場
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[第58回]工作員のゴムボート使用とピストル武装が初めて確認された能代事件
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[第69回]半島統一を目指して1967年に再編された第124軍部隊
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[第70回]日本の官公庁を震撼させた総連工作員の「外務省スパイ事件」
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[第72回]「青瓦台を襲撃し、朴正煕の首を取れ」と命令された工作組
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[第95回]工作員専用の915病院で目撃された日本人拉致被害者
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[第96回]渡辺秀子さん殺害と子供2人の拉致を指示した女性工作員
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[第98回]李厚洛KCIA前情報部長の拉致を命じた金日成
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[第100回]在日韓国人を包摂し大統領狙撃犯に仕立て上げた朝鮮総連
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[第102回]日本人化教育の教官獲得のため拉致を定式化させた金正日
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[第106回]曽我さん親子を拉致した女工作員の弟は有名なバイオリニスト
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[第107回]横田めぐみさん以前に日本人拉致はなかったとする金正日
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081111100606.html

[第108回] 北朝鮮の説明から読み取る日本人拉致被害者の所属機関
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081114154336.html

[第109回]平壌で一時期共同生活をしていためぐみさんと曽我さん
http://www.bnn-s.com/news/08/11/081117154502.html






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