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女性の視点第3回 「もうへこたれることはありません」 伊藤純さんが語る性同一性障害 後編


12月14日(日) 13時30分
文:東  写真:東 



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10月18日、伊藤純さんは初めての講演会を空知管内長沼町で開き、自身の体験を語った
 大学の入学式はスーツを着たが、卒業式は袴で出席。

 学生時代に続いて社会人になっても、偏見に悩まされた伊藤純さん。逞しく生きることを決意することができた転機は札幌を離れることだった。以下、伊藤さんのインタビュー後編。

 −−伊藤さんが栗山町に移住したきっかけを教えてください。

 伊藤 当時、付き合っていた人が栗山町で働いていたので移住しました。栗山に来るまでは地方の人のことは知りませんでした。付き合っていた男性に迷惑を掛けられないと思って別居し、生活保護を受けました。

 移住して1カ月も経たないのに、どこからか情報が漏れ、私は一躍栗山の有名人になってしまったのです。「あなたは私を知らないかもしれないけど、私は知っているのよ」などと知らない人から声を掛けられたり、手を振られたりすることが頻繁にありました。

 ある公的機関に書類の手続きをするために行くと、そこの男性職員が「これはプライベートな質問だけど、男同士でどうやってセックスをするの」「工事(手術)は済んでいるの」などセクハラのようなことを平然と聞いてきました。こんなことで負けてはいられないと考えた私は、冗談で「そんなに知りたいなら、私と試してみますか」と切り返しました。男性職員は「結構です」と答えるのが精一杯だったようです。この件を機に、あらゆる人に対して自分の方から馴染んでいこうと考えました。

 その後は町民講座のステンドグラスを受講し、主婦だけがメンバーのステンドグラスサークルに入ることを許されました。メンバーと仲良くなって一緒にお茶を飲んだり、私の理解者がどんどん増えていったのです。

 町内対抗のミニバレーボール大会への参加を頼まれたこともありました。私は知りませんでしたが、チームには男女の人数制限がありました。男女別の練習で町内会の人から「お前は男の方だ」と言われ、悔しいながらも男の方で練習しようとしたのですが、仲間には入れてもらえませんでした。練習場で悔し泣きをしているとママさんバレーのチームのメンバーが「こっちに来てやりなさい」と言ってくれたのです。

 私の生活が変わったのは付き合っていた男性が家を新築したことがきっかけでした。この時、養母から「ピアノを持っていきなさい」との連絡がありました。これをきっかけに、私は生活保護の受給をやめ、ピアノ教師をはじめたのです。暮らしていると、私がこの町で生きていくには肩書きがないとだめなんだと思ったためです。

 私が性同一性障害であることはピアノ教室の子供たちにこそ話しませんでしたが、母親たちには説明しました。中には私のいる前で「純ちゃんみたいな人にピアノを習って大丈夫かな」と口にした母親もいました。とても悔しい思いをした私を支えてくれたのが、ピアノ教室の生徒の母親や、バレー、ステンドグラスの人たちでした。

 当時は作家を目指そうと考えて、大学を出ないとだめと思って、受験勉強を始めました。友達から「度胸試しにどこかを受けて受験の雰囲気だけでも味わってみたら」とアドバイスされ、願書の締め切りが近かった札幌学院大学を受けたのです。

 願書には性別を記載する欄があります。迷った結果、髪を切って(社会人入試の)面接に臨みました。面接は(受験者に対して威圧的、あるいは意図的に意地の悪い質問をして、これに対する受験者の対応を評価する)圧迫面接だったため、私は性同一性障害のことを言わざるを得ない状況になりました。

 入試には合格しましたが、お金はありません。実母に電話すると「女の子に産んであげられなかったから、学費は出してあげるよ」と言ってくれました。大学生になったら、高校生までの学生時代にできなかったことは、すべて取り戻したいと思いました。

 大学入学後の合宿オリエンテーションで私は男子の部屋でした。みんな(ホテルの大浴場には入らず)順番で部屋のお風呂に入ったり、朝まで寝ないで起きていてくれるなど私を気遣ってくれました。私が在籍する人文学部臨床心理学科は、全体の7割が女性でした。私は性同一性障害のことをみんなの前で、「男としては暮らしていけない」と明かしました。

 大学では授業の出席をとる時に、「○○君」「○○さん」と呼ばれます。私が君で呼ばれるとみんなが私の方を振り向きます。先生には「さん」で呼んでくださいとお願いし、了承してもらいました。

 同じ学年にはFtM(身体的には女性だが性自認は男性のケースをFtM「Female to Male」、逆に身体的には男性だが性自認が女性である場合はMtF「Male to Female」と呼ばれる)の人がいました。何も先生には言えず、トイレも我慢しているほどでした。私は大学を少し変えるべきと考え、まず、どのようなことに困っているかを言おうと思いました。

 それまで私は女子トイレを使っていましたが、正式にはどちらに入れば良いのかを証明しようと考え、男子トイレに入ってみましたが、まわりがびっくりしてしまします。体育授業の着替えの時は一度だけ男子更衣室に入りました。みんなが私に背中を向けて、ほかの人が私の着替えを見えないように壁を作ってくれました。苦手なサッカーの時は、教授が「授業を見学して、ゼッケンをほかの学生に渡す補助的な役割をすれば、出席にする」と言ってくれました。

 大学で性同一性障害の講演会を開いてもらいたいと考え、人文学部の自治会に申し入れました。虎井まさ衛さん(上戸彩がテレビドラマ「3年B組金八先生」で演じた性同一性障害に悩む生徒・鶴本直のモデル)を呼びました。しかし、講演会に多くの学生は集まらず、開いたことに意味があったのかなとも思いました。

 私は女性として学生生活を楽しみたいと考えていたので、いろいろなことを大学側に言うのはもうやめようと考えました。疲れてしまったのです。

 大学2年からは柔道部の女子マネージャーになりました。卒業するまでの期間は、周囲の友達から支えられ、飲み会やボウリングなど大学生らしい遊びに誘ってもらいました。私とは性別や年代が違っても、みんなが分け隔てなく接してくれました。大学の入学式は男としてスーツを着て出ましたが、卒業式(伊藤さんは現在、臨床心理学科研究生)は袴(はかま)をはいて出席することができました。

 これまで私はいじめられて強くなりました。性別のことを言われれば傷は付きますが、へこたれることはもうありません。

 2003年7月10日、衆議院本会議で与党3党(当時)による議員立法「性同一性障害者の性別の取扱いの特例に関する法律」が全会一致で可決され、成立した。この法律は、性同一性障害の人が家庭裁判所の審判を経て戸籍の性を変えられるというものだ。

 それでも審判では「20歳以上であること」「現在、婚姻をしていないこと」「子がいないこと」「生殖腺がないことまたは生殖腺の機能を永続的に欠く状態にあること」「身体の性器が移行する性に近似する外観を備えていること」の5ついずれにも該当することが条件。戸籍の性別変更は条件が厳しく、希望者のごく一部しか申請できない。

 今年6月には、「子どもがいないこと」を「未成年のこどもがいないこと」に緩和する改正特例法案が可決され、性別変更希望者の“間口”は少しばかり広がった。


 −−改正法の内容をどのように考えますか。

 伊藤 私は性同一性障害者の診断基準は甘いのではないかと思っています。私から見ても、性同一性障害ではないと思う人がいるためです。

 性同一性障害は、次の3つに分類されている。

 トランスセクシュアル(transsexual) 自身の身体の性と心の性の不一致を最も強く感じる人。一致しないふたつの性を合致させるため、性別適合手術(SRS Sex Reassignment Surgery)を望む。

 トランスジェンダー(transgender) 身体とは反対の性での生活を願いながらも、性別適合手術までは望まない人。

 トランスベスタイト(transvestite) 身体の性と違う服装をする異性装者。「女装者」や「男装者」のこと。心の性との不一致がないため、「性同一性障害者」とは区別されているが、異性装をすることで、性の違和感を解消しているケースもある。

 伊藤 法律によってSRSは増えると考えていましたが、手術はホルモン剤投与の副作用もあります。術後、(子供を産めないのに)本当に女性としての生活ができるかには疑問もあります。それぞれがQOL(Quality of Life)を自分で考えることこそ必要なのだと思います。

 −−ありがとうございました。

 伊藤さんは、性同一性障害に関する講演会の依頼を受け付けている。詳細は下記URLから。







関連サイト

前編
http://www.bnn-s.com/news/08/12/081210122642.html

中編
http://www.bnn-s.com/news/08/12/081211150052.html

性同一性障害 講演会
http://hokkaidoshinri.web.fc2.com/






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